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書評のブログ。

【おすすめの本】沢木耕太郎さんの作品5選

沢木耕太郎さんの作品から私の中で印象に残っている5冊を箇条書きで紹介したいと思います。どれも読みごたえのある本ですので、ぜひ読んでみてほしいです。

目次

作品5選

一瞬の夏

  • ノンフィクションですが、長編小説のようです。
  • 一気に読みたい作品です。
  • 沢木さん自身が主人公のノンフィクション作品だと個人的にはとらえています。
  • 文章のスタイルについては分析はできないのですが、沢木さんの感じた空気がストレートに伝わるように書かれているんだと思います。
  • 登場人物の重厚な迫力に圧倒されました。
  • 最後の最後まで、夢中になって読めました。

深夜特急

  • 言わずと知れた不朽の名作。
  • 余計なお世話かもしれませんが、若い人にぜひ読んでほしいと思います。
  • 旅に出ても出なくても、何かしら感じれるんじゃないかと。
  • テーマ、分量、本のデザインとどれをとっても個人的に最高ランクの本の1冊です。
  • 自分としては、後半がぐっときました。

人の砂漠

  • 想像できないような事件の裏側を丹念に綴っている作品です。
  • こんな生き方をした人間がいるんだと驚くばかりでした。
  • 沢木さんの社会をテーマにした作品で初めて読んだ本だと思います。
  • ノンフィクションとはこんなに魅力的なものなのかと感じました。
  • 視点が独特なんだけど、それをうまくはぐらかしているのがポイントではないかと個人的には思います。
  • オリジナリティに富んでいるけど、クセがないように思いました。
  • 読みやすさと内容へのひっかかりのバランスが絶妙になっています。

敗れざる者たち

  • スポーツの世界をありのままに描き出したような作品が収められています。
  • 陽気な雰囲気は感じられません。
  • 一読後の感想としては、雑誌Numberの記事が凝縮しているみたいだな、と思いました。
  • 描かれている時代は古いのですが、面白いという一言に尽きます。
  • よい作品は、時間を経ても魅力が色あせないことがはっきりとわかる本です。

テロルの決算

  • このような迫力のあるノンフィクション作品があったんだと衝撃を受けました。
  • 沢木さんの社会を描き出す力に圧倒されました。
  • この本を読んでから1960年が自分の中で印象的な年になっていて、他の本でも1960年が出てくると引っかかるようになりました。
  • 「危機の宰相」も同じように社会をテーマにしていて、このような作品も好きです。
  • 社会を描いたノンフィクションの魅力を知るのに最適な本ではないでしょうか。

おわりに

以上、5冊になります。

ぜひ、気になる一冊があったら、手に取っていただきたいです。

【書評】「味醂干し(眠る盃)」(向田邦子)を読んでの感想

はじめに

味醂干しを題材にしたエッセイです。
食べ物を取り扱った向田さんの文章はどれも楽しいのですが、食べ物が魅力的に描かれているものになっていると思います。
個人的には、書かれている食べ物を一番食べてみたくなった一遍です。

目次

全体の感想

向田さんのエッセイに共通する以下のようなピースが集まっています。

  • 落語のような雰囲気
  • 料理のレシピめいた文章
  • 子供時代の思い出
  • 東京

味醂干しという食べ物がまた独特で合っているんですね。

キーワード3選

味醂干し

 タイトルが最も印象的だったと思います。
 これほど味醂干しをおいしそうに書いたものが思いつかないです。
 このエッセイを読んだら、絶対に味醂干しを食べたくなると思います。
 子供時代にアツアツの味醂干しを口に入れたときの描写は絶対に読んでほしいです。

魚屋さんとの会話

 失われたおいしさを追いかける向田さんとの会話です。
 粋な会話と言えばいいのでしょうか。歯切れのいい会話が印象に残ります。

懐かしさ

 味醂干しを通して、描かれているのは子供時代への懐かしさだと思うんですね。
 おいしかった味醂干しを食べていた頃の記憶を追いかけるように、おいしい味醂干しを探しています。
 決して湿っぽくはないのですが、改めて読み返すと、懐かしんでいることがすごく伝わってきます。

印象に残った文章

"…うめえわけねえや。"

「眠る盃」(文春文庫)より引用

魚屋のおやじさんの言葉です。
歯切れのよい口調が聞こえてくるような気がします。
昔と変わってしまい、おいしくない味醂干しへの批評となっています。
一緒に怒っている向田さんの心情が伝わってきて、何だか可笑しくて、印象に残っています。

おわりに

味醂干しを通して、思い出される子供時代が背景にあります。
昔ながらの味醂干しを求める向田さんは、同時に思い出に少し浸ろうとしていたのかもしれません。
一方で、食べ物の趣向の原点を味醂干しとして、お洒落な料理を楽しむ自分へ冷めたようなことも書いています。
湿っぽくなく、昔を丹念に懐かしむ。
向田さんらしさに満ちた一遍だと思います。

【書評】「奇妙なワシをめぐって(像が空をⅢ 勉強はそれからだ)」(沢木耕太郎)を読んでの感想


はじめに

「奇妙なワシ」というエッセイの後日譚になる一遍です。
エッセイが連なるように書かれていることが時々あると思うのですが、
続きを読む楽しさも独特なものです。

語り口が軽妙で、日記のような雰囲気です。

目次

全体の感想

まずは、インパクトのあるタイトルが忘れられないですね。
読む前は、奇妙なワシとは何か、と気になりました。
自分を指す時に、1人称の「ワシ」という言葉を使うかどうかということが書かれているんですが、
確かにそうだな、と思える内容になっていると思います。

日記のような書かれ方で、一緒にお酒を飲んだり、仕事をした人物も出てきます。
このような登場人物が有名な方で、沢木さんの交友関係も垣間見れて興味深かったですね。

キーワード3選

日記

体裁が日記のようになっています。
日常の中で起こった出来事とワシについての描述がうまく融合しているんですね。
すっと読めるエッセイの要素として体裁も重要であることを感じました。

言葉の選び方

作家として、どう言葉を選んで書くかというテーマが根底にはあります。
文章を書くことを仕事にしている人との会話で、書き言葉に対する意識が垣間見れます。
プロ同士の意見交換の向きもあるので、読んでいて興味深いな、と。

軽妙

日記のようで、軽いタッチの文章になっています。
すっと、楽な気持ちで読めるエッセイになっています。

印象に残った文章

'私は緊張して耳を傾けた。'

> 「像が空をⅢ 勉強はそれからだ」(文春文庫)より引用

自分の書いたエッセイの内容について、語られる前に緊張する沢木さんの心境です。
率直な一文で、一緒に緊張して次の一文を読んでしまいました。

おわりに

自分の書いた文章をめぐって、気を回している沢木さんの様子が何だか面白いんですね。
こんなこともあったのかと、不思議な親近感までわいてきます。
仕事の中でのお話を聴かせてもらっているようで、楽しい文章ではないかと思います。

【書評】「ドランカー<酔いどれ>(敗れざる者たち)」(沢木耕太郎)を読んでの感想


はじめに

1975年、元ボクサーの輪島功一さんが当時のWBAジュニアミドル級世界チャンピオン、柳済斗さんと戦ったタイトルマッチについて取材されたノンフィクション作品です。

目次

全体の感想

クライマックスがとにかくいいんです。
試合に向かっていく輪島さんの姿とともに、本音が垣間見れるんですね。
裏側にあった要素が沢木さんの目を通して、描写されます。
解釈は人それぞれだと思いますが、決して陽気なものばかりではありません。
最後の場面では、それまで描写されていたものを打ち消すようもの、勝ったという事実があったことが書かれています。

キーワード3選

減量

輪島さんが減量する姿が描かれています。
ボクサーのイメージそのままの姿は強く印象に残りました。

プロ

輪島さんのボクサーとしての職業意識が感じとれる場面が多くあります。
金銭と引き換えに試合を行う者としてどう考えて生活しているのか。
プロ意識が勝てた理由ではないと思います。
試合に向けて自分を高めていくことしかないだけなんだと思いました。

したたかさ

輪島さんは勝つためにすべてを捧げます。
ルールの中であざむことも厭わないんですね。
恰好や体裁ではなく、勝つことを求める姿は、潔くもありました。
そこが勝てた理由ではないように文章からは感じられると思います。
ただ、勝つことに誠実ベテランボクサーの姿が印象に残っています。

印象に残った文章

'この世界は勝った者が官軍です。勝った者が強かった者なんです。'

「敗れざる者たち」(文春文庫)より引用

現実的な言葉だと思います。
輪島さんが所属していたジムの会長の言葉なんですね。
一人の人間をボクサーを育て、試合に向かわせようとしている人間の凄みを感じさせます。

おわりに

試合に向けて高まっていく様子が伝わってきます。
可能な限り近い場所で見ていた沢木さんには、その高揚感を感じていたと思います。

スポーツ観戦を楽しむ上で、出場者のエピソードを知ることは最上の手段です。
そのことが理屈抜きで分かるような一遍だと思いました。

そして、この一遍には「コホーネス<肝っ玉>」という続きの作品があります。
ぜひ、合わせて読んでみてほしいです。

 

【書評】「運命の受容と反抗(像が空をⅠ 夕陽が眼にしみる)」(沢木耕太郎)を読んでの感想


はじめに

沢木耕太郎さんが、柴田錬三郎さんについて書かれた一遍になります。

目次

全体の感想

文章の始まり方がとても自然で、流れるように主題に入っていくんですね。
マクラにあたる部分も印象的です。
すっとテーマに入っていって、すとんと着地する感じの一遍でした。

キーワード3選

対談

マクラはある対談での挿話になっています。
このお話自体が魅力のあるものになっていると思いました。
登場する人物、本、できごと、全てが想像の範疇の外にあるような話です。

降りて、降りない

本編の最も重要な言葉ではないかと思います。
難しい考え方ですね。
こういうことを実践できる人には凄みがあるんだろうな、と。

時代小説

沢木さんが時代小説の世界に没頭していた時期があることが書かれています。
柴田錬三郎さんにとって時代小説を書くというのがどういうことだったのかということへの考察が書かれています。
時代小説の雰囲気と沢木さんの作品に通じるものがあるというようなことが書かれていて、妙に納得できました。

印象に残った文章

抗したところで結局は何も変わらないかもしれないが、抗してみるだけの価値はある、と。

 > 「像が空をⅠ夕陽が眼にしみる」(文春文庫)より引用

沢木さんが柴田さんの作品に流れるテーマとして書かれた一文です。

本作品のテーマを端的に表していると思います。

このような視点で沢木さんの作品を読み解いてみるのもいいかもしれませんね。

おわりに

一人の作家さんの作品の変遷と生き方の共通点をごく自然に書かれています。
好きな作品の著者について知りたくなるのは、誰にでもあるんじゃないかと思うんですが、沢木さんもそういった部分があったんだろうなと思えました。
少年時代に没頭したというのがいいですね。

興味深く読めた一遍でした。

 

【書評】「苦い報酬(像が空をⅠ 夕陽が眼にしみる)」(沢木耕太郎)を読んでの感想

はじめに

本作品は、沢木耕太郎さんによるトルーマン・カポーティについての論評ともいうべきものです。
私は、トルーマン・カポーティという作家をこの文章で初めて知りました。
うっすらと知っていた「ティファニーで朝食を」という小説の作者であることと、「冷血」という著名なノンフィクション作品の作者であること。
この2点が一読後に最も記憶に残ったことでした。

2回、3回と読むうちに緻密な作家論が展開されていることに圧倒されました。
一人の作家の作品の遍歴から、創作の裏側を読み解く文章は読むうちにどんどん引き込まれます。

目次

全体の感想

沢木さんの深い洞察に圧倒され、飲み込まれるような印象さえ持ちました。
作品の中に流れを見出し、作風の変化の分岐点を指摘しています。
ご自身が文章を書かれていることから、技術についての論評には説得力があります。
一人の作家を追いかけて読み続けることの魅力を感じられる一遍だと思います。

キーワード3選

文章のスタイル

何気なく本を読んでいると、見落としがちなことですが、著者は文章のスタイルについて深く考えて書いているんですね。
カポーティが文章のスタイルを追い求めていたことを沢木さんは指摘しています。
革新的なスタイルを見出して、発表することは作家の方にとって代え難いものであることが伝わってきます。

「冷血」

実際に発生した殺人事件をカポーティが徹底的に取材して書かれた作品です。
ノンフィクションライターにとっては、重要な作品であったそうです。
この一遍から、「冷血」が沢木さんにとっても避けられない一冊であったことが分かります。

名声

有名な作家となったことがカポーティの作家としての遍歴で重要な要素となっていることが指摘されています。
文章のスタイルを追い求める作家としての生き方とは、別に華やかな交友を楽しんでいたんですね。
沢木さんは、カポーティが作家として実現できたこととできなかったことを明確に分析しています。

個人的には、カポーティという作家がとらえどころのないような作家であるという印象も持ちました。
同じ時代に生活をしていないと分からない部分もきっとあるのだろうと思います。
いずれにしても、当時を代表する作家であったことが伝わってきます。

おわりに

本を読み、一人の作家を知ることの魅力を十二分に伝えている文章だと思います。
一人でもそのような読書の体験ができることは豊かなことなんじゃないかと思うんですね。

トルーマン・カポーティの本を読みたくなることは間違いない文章です。
さらに、沢木さんが書かれた他の作家の方についての文章も読んでみてほしいです。
(作家論がまとめられた「作家との遭遇」がおすすめです。)

 

 

【書評】「死に場所を見つける(貧乏だけど贅沢)」(沢木耕太郎)を読んでの感想


はじめに

沢木耕太郎さんと高倉健さんの対談です。
沢木さんの作品を読む前には、お二人が対談されていることが意外に思えました。
対談についての経緯は、エッセイなどで読むことができます。
沢木さんの作品には、高倉さんのお話が多く出てくるんですね。
お互いを尊敬しあう関係がとても爽やかに思えました。
この対談では、お二人がお互いの仕事を知ろうとしているところが印象に残っています。

目次

キーワード3選

ハワイ

お二人が好きな場所として、ハワイを挙げているんです。
ハワイにについて書かれた文章も沢木さんには割と多いんですね。
少し意外なのですが、興味深くて印象に残っています。

長い灰色の線

高倉さんが対談された当時に観てよかったと語っている映画作品です。
高倉さんのエッセイを読むと、映画作品について書かれているものが出てきます。
感動した気持ちが伝わってくる文章なんですね。
この作品も観てみたくなりました。

外国

高倉さんにとっての外国観というようなものも最後に語られています。
遠く離れた場所への憧れを持っていたんだなと感じました。
お二人とも外国を訪れる機会も多かったと思うのですが、外国への憧れを持ち続けていた高倉さんの言葉が印象的でした。

印象に残った文章

'悲しいのがオーバーということなら、寂しいですね。決して陽気にはなりませんね。'

「貧乏だけど贅沢」(文春文庫)より引用

この一言は高倉さんのものです。
発せられた意味も重要だと思うのですが、語り口が高倉さんならではのものだと思えるんですね。
話している映像が目に浮かぶように感じます。

おわりに

お二人の話を近くで聞いているような感覚になる一遍です。
ずっと聴いていられるように思いました。
内容もいいのは当然だと思うのですが、お二人の語り口が優しいんですね。
お互いへの尊敬が言葉の端々から感じられるし、自分自身のことをしっかりと客観視していることも伝わってきます。
高倉さんの映画作品も観たくなったのを覚えています。
ぜひ、読んで頂きたい対談です。