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書評のブログ。

【書評】「寸劇(霊長類ヒト科動物図鑑)」(向田邦子)を読んでの感想


はじめに

向田邦子さんのエッセイの一遍です。
日本人らしい気の回し方を丹念に描いた作品になります。

目次

全体の感想

向田さんらしいなというのが第一の印象です。
客としての振る舞いと主人側の気持ちの機微は、日本の方だと分かるなと思うのではないでしょうか。
この辺を独特の視点で描いているんですね。

キーワード3選

誰しも、お客になったり、お客を迎える側になったりします。
どんな気持ちで振舞うのか。
探り合い、引いたり、押したり、かわしたり。
要素がたくさんあります。
人生の達人が秘訣を解き明かしていくような楽しさと奥深さがあるように思いました。

食べ物

食べ物を扱っているのがポイントだと思います。
向田さんが食べ物について書いたものは何だか楽しいんです。

楽しむコツ

気を遣うような局面も楽しめる心持を向田さんが持っていたように思います。
何事も前向きにとらえられる方だったのではないかと想像されます。
ポジティブな印象が全体に散りばめられているので、読んでいて安心できるのではないでしょうか。

印象に残った文章

...客も主人もみなそれぞれにかなりの名演技であった。

「霊長類ヒト科動物図鑑」(文春文庫)より引用

向田さんが言うなら、そうなんだろうな、と思わされます。
この辺の文章が楽しそうなんですよね。

おわりに

お客のことも主人のことも客観的に眺めている向田さんの姿が目に浮かぶようなエッセイです。
どちらの気持ちも手に取るように分かっており、解説を加えているような感じなんですね。
手の内を明かしながら、楽しんでいるような文章となってます。

短い一遍ですが、味わい深い作品です。

【書評】「私だけの教科書(像が空をⅢ 勉強はそれからだ)」(沢木耕太郎)を読んでの感想


はじめに

沢木耕太郎による、ノンフィクションについての技術論とも言えるエッセイです。
タイトル通りに教科書として、沢木さんが読んだ本が紹介されています。

沢木さんのエッセイには、技術論が書かれているものがいくつかあるのですが、その中の一編になります。

目次

全体の感想

ストレートにノンフィクションを書く際の技術論が書かれてます。
沢木さんの技術論を読めるということで、非常に貴重なのではないかと思います。

以下では、自分なりに捉えなおしたこの一遍で書かれている技術の中心部分を書いてみたいと思います。

キーワード3選

自分の興味、思考の方向性、感じ方をしっかりと知ること

まずは、自分がどのような姿勢で作品のテーマを取材するのかということが大事だとされていました。
取材するのは自分自身であり、そこがブレていてはよい作品にならないのだと思います。

結論を導き出すことに重点を置かないこと

沢木さんは、結論を出すことは重要ではないとされています。
対象について学び、取材し、自分の思考への変化や感じたことが重要なのだと。
明確に結論が出すことを求めず、思考が揺さぶられていく様子を描くことで、読み手に考えさせ、感じたことを共有できるのではないかと思いました。
実際の出来事への感情の共有がノンフィクションを読む時の醍醐味なのではないかとも感じました。

生き生きとした表現

恣意的に生き生きとさせることではありません。
自分なりに見て、聞いて、感じたことをしっかりと描くことが、結果として生き生きとした表現につながるのだと思います。
読み手に伝わる表現になっているかどうかということが、ノンフィクション作品として魅力あるものになっているかどうかの指標になるのではないかと思いました。

印象に残った文章

'私はもういちど「散る日本」と「世相講談」に引き返し、読み直した。何度読み直したか。'

> 「像が空をⅢ 勉強はそれからだ」(文春文庫)より引用

すぐに技術が身につくということはないということが分かる一文です。
"教科書"を読んですぐにできるようにはならないという当たり前のことが伝わってきます。
四苦八苦しながら、技術を自分のものにしていくこともこの1篇から学ぶことができると思います。

おわりに

文章を書く、ノンフィクションを書く、ルポルタージュを書く際の参考になることは間違いないと思います。
文章を書く力をつけたいと考えている方にはぜひ一読していただきたい作品です。

【書評】「幕末よもやま(司馬遼太郎対話選集3 歴史を動かす力)」(司馬遼太郎)を読んでの感想

はじめに

司馬遼太郎さんと子母澤寛さんの対談です。
タイトル通り、幕末の話題が中心の対談となっています。

目次

全体の感想

とにかく面白いです。
短い対談ですが、ずっと楽しんで読めました。
歴史に詳しいお二人が逸話を披露しているのを聴いている感じなんですね。
興味深いお話が次々に出てきて興味が尽きないです。

キーワード3選

新選組

新選組について調べた経験をお持ちの二人ですから、新選組についてのお話は非常に深いものがあります。
作品のための調査のこぼれ話のようなものがとても楽しく読めるんですね。
こんな話も聴いていたのか、と驚くような気持ちになります。

お年寄り

お二人が調査された時点で、幕末は昔の出来事となっています。
実際にその時代を生きていた人はお年寄りになっているわけなんですね。
子供のころにお年寄りから聴かされた話というものが作品の根底にあるように思えました。
お年寄りの話ということで、どこか不確かさもあるようなんですが、そこも魅力になってしまっているんじゃないかと思います。

長州藩

幕末の長州藩についてのお二人の洞察も語られています。
長州藩というものが独特の気風をもっていたとお二人は捉えているようです。
江戸時代の初めからの流れを汲んでの考察ですので、非常に面白いですね。
司馬さんの作品には、安土・桃山時代から江戸時代にかけてを描いたものもあります。
直接ではないのですが、幕末の作品とのつながりもどこかにあるように思えました。

印象に残った文章

'まあ、二流の川柳作家といった程度の文才がございますね。'

> 「司馬遼太郎対話選集3 歴史を動かす力」(文春文庫)より引用

司馬さんが土方歳三の文芸の才能を評しての言葉です。
文芸については、お二人の専門分野です。
俳句などが残っている歴史上の人物の文芸の才能に対して評価していることが興味深いなと思いました。

おわりに

お二人ともに日本の歴史についてお詳しいので、話されている内容が興味深かったです。
ずっと聞いていられるような気がする対談でした。
歴史小説がお好きな方におすすめの対談です。

【書評】「鎌倉武士と一所懸命(司馬遼太郎対話選集1 この国のはじまりについて)」(司馬遼太郎)を読んでの感想

はじめに

司馬遼太郎さんと、永井路子さんとの対談です。
鎌倉幕府成立時の日本社会について語られています。

目次

全体の感想

平家物語の時代の内容について語られています。
基本的なことは知っていても、お二人ほどの知識は当然ながらないので、勉強になるなというのが率直な感想です。
日本社会の一つの時代を切り取った捉え方を学ぶのによい資料になるのではないかと思います。

キーワード3選

東日本と西日本

源頼朝の時代の日本社会についてお二人のとらえ方が語られており、東と西の社会の違いがあるとされています。
この時代の社会について、深く知る機会はなかったので非常に興味深かったです。
社会を変える原動力になったものが何だったのかを考えるきっかけになると思います。

源頼朝源義経

頼朝と義経については多くの捉え方があると思います。
どうして二人は平家物語のような変遷を辿ったのか。
多くの解釈がありますが、お二人の対談の中での解釈もとても興味深いものでした。

平家物語

平家物語の時代についての対談なのですが、その背景にあった社会についての認識が変わる内容かと思います。
物語の捉え方がより深くなると感じました。

おわりに

司馬遼太郎さんが日本の歴史について語っているので、すごく引き込まれるものがありました。
司馬さんは、対談集も多く刊行されており、小説や紀行文とはまた違った魅力があります。

ぜひ、対談集も手に取っていただけると、新しい司馬遼太郎さんの作品の楽しみ方が広がるのではないでしょうか。

【おすすめの本】沢木耕太郎さんの作品5選

沢木耕太郎さんの作品から私の中で印象に残っている5冊を箇条書きで紹介したいと思います。どれも読みごたえのある本ですので、ぜひ読んでみてほしいです。

目次

作品5選

一瞬の夏

  • ノンフィクションですが、長編小説のようです。
  • 一気に読みたい作品です。
  • 沢木さん自身が主人公のノンフィクション作品だと個人的にはとらえています。
  • 文章のスタイルについては分析はできないのですが、沢木さんの感じた空気がストレートに伝わるように書かれているんだと思います。
  • 登場人物の重厚な迫力に圧倒されました。
  • 最後の最後まで、夢中になって読めました。

深夜特急

  • 言わずと知れた不朽の名作。
  • 余計なお世話かもしれませんが、若い人にぜひ読んでほしいと思います。
  • 旅に出ても出なくても、何かしら感じれるんじゃないかと。
  • テーマ、分量、本のデザインとどれをとっても個人的に最高ランクの本の1冊です。
  • 自分としては、後半がぐっときました。

人の砂漠

  • 想像できないような事件の裏側を丹念に綴っている作品です。
  • こんな生き方をした人間がいるんだと驚くばかりでした。
  • 沢木さんの社会をテーマにした作品で初めて読んだ本だと思います。
  • ノンフィクションとはこんなに魅力的なものなのかと感じました。
  • 視点が独特なんだけど、それをうまくはぐらかしているのがポイントではないかと個人的には思います。
  • オリジナリティに富んでいるけど、クセがないように思いました。
  • 読みやすさと内容へのひっかかりのバランスが絶妙になっています。

敗れざる者たち

  • スポーツの世界をありのままに描き出したような作品が収められています。
  • 陽気な雰囲気は感じられません。
  • 一読後の感想としては、雑誌Numberの記事が凝縮しているみたいだな、と思いました。
  • 描かれている時代は古いのですが、面白いという一言に尽きます。
  • よい作品は、時間を経ても魅力が色あせないことがはっきりとわかる本です。

テロルの決算

  • このような迫力のあるノンフィクション作品があったんだと衝撃を受けました。
  • 沢木さんの社会を描き出す力に圧倒されました。
  • この本を読んでから1960年が自分の中で印象的な年になっていて、他の本でも1960年が出てくると引っかかるようになりました。
  • 「危機の宰相」も同じように社会をテーマにしていて、このような作品も好きです。
  • 社会を描いたノンフィクションの魅力を知るのに最適な本ではないでしょうか。

おわりに

以上、5冊になります。

ぜひ、気になる一冊があったら、手に取っていただきたいです。

【書評】「味醂干し(眠る盃)」(向田邦子)を読んでの感想

はじめに

味醂干しを題材にしたエッセイです。
食べ物を取り扱った向田さんの文章はどれも楽しいのですが、食べ物が魅力的に描かれているものになっていると思います。
個人的には、書かれている食べ物を一番食べてみたくなった一遍です。

目次

全体の感想

向田さんのエッセイに共通する以下のようなピースが集まっています。

  • 落語のような雰囲気
  • 料理のレシピめいた文章
  • 子供時代の思い出
  • 東京

味醂干しという食べ物がまた独特で合っているんですね。

キーワード3選

味醂干し

 タイトルが最も印象的だったと思います。
 これほど味醂干しをおいしそうに書いたものが思いつかないです。
 このエッセイを読んだら、絶対に味醂干しを食べたくなると思います。
 子供時代にアツアツの味醂干しを口に入れたときの描写は絶対に読んでほしいです。

魚屋さんとの会話

 失われたおいしさを追いかける向田さんとの会話です。
 粋な会話と言えばいいのでしょうか。歯切れのいい会話が印象に残ります。

懐かしさ

 味醂干しを通して、描かれているのは子供時代への懐かしさだと思うんですね。
 おいしかった味醂干しを食べていた頃の記憶を追いかけるように、おいしい味醂干しを探しています。
 決して湿っぽくはないのですが、改めて読み返すと、懐かしんでいることがすごく伝わってきます。

印象に残った文章

"…うめえわけねえや。"

「眠る盃」(文春文庫)より引用

魚屋のおやじさんの言葉です。
歯切れのよい口調が聞こえてくるような気がします。
昔と変わってしまい、おいしくない味醂干しへの批評となっています。
一緒に怒っている向田さんの心情が伝わってきて、何だか可笑しくて、印象に残っています。

おわりに

味醂干しを通して、思い出される子供時代が背景にあります。
昔ながらの味醂干しを求める向田さんは、同時に思い出に少し浸ろうとしていたのかもしれません。
一方で、食べ物の趣向の原点を味醂干しとして、お洒落な料理を楽しむ自分へ冷めたようなことも書いています。
湿っぽくなく、昔を丹念に懐かしむ。
向田さんらしさに満ちた一遍だと思います。

【書評】「奇妙なワシをめぐって(像が空をⅢ 勉強はそれからだ)」(沢木耕太郎)を読んでの感想


はじめに

「奇妙なワシ」というエッセイの後日譚になる一遍です。
エッセイが連なるように書かれていることが時々あると思うのですが、
続きを読む楽しさも独特なものです。

語り口が軽妙で、日記のような雰囲気です。

目次

全体の感想

まずは、インパクトのあるタイトルが忘れられないですね。
読む前は、奇妙なワシとは何か、と気になりました。
自分を指す時に、1人称の「ワシ」という言葉を使うかどうかということが書かれているんですが、
確かにそうだな、と思える内容になっていると思います。

日記のような書かれ方で、一緒にお酒を飲んだり、仕事をした人物も出てきます。
このような登場人物が有名な方で、沢木さんの交友関係も垣間見れて興味深かったですね。

キーワード3選

日記

体裁が日記のようになっています。
日常の中で起こった出来事とワシについての描述がうまく融合しているんですね。
すっと読めるエッセイの要素として体裁も重要であることを感じました。

言葉の選び方

作家として、どう言葉を選んで書くかというテーマが根底にはあります。
文章を書くことを仕事にしている人との会話で、書き言葉に対する意識が垣間見れます。
プロ同士の意見交換の向きもあるので、読んでいて興味深いな、と。

軽妙

日記のようで、軽いタッチの文章になっています。
すっと、楽な気持ちで読めるエッセイになっています。

印象に残った文章

'私は緊張して耳を傾けた。'

> 「像が空をⅢ 勉強はそれからだ」(文春文庫)より引用

自分の書いたエッセイの内容について、語られる前に緊張する沢木さんの心境です。
率直な一文で、一緒に緊張して次の一文を読んでしまいました。

おわりに

自分の書いた文章をめぐって、気を回している沢木さんの様子が何だか面白いんですね。
こんなこともあったのかと、不思議な親近感までわいてきます。
仕事の中でのお話を聴かせてもらっているようで、楽しい文章ではないかと思います。