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【書評】「「ねずみ花火」(父の詫び状)」(向田邦子)を読んでの感想

はじめに

本作品は、向田邦子さんの「父の詫び状」というエッセイ集に収められている一編です。
印象的な一編でして、感想を書いておきたいと思いました。

「父の詫び状」は中学生の頃に名前を知ったように記憶しています。有名な本なので、内容が気になって読んでみることにしました。
「ねずみ花火」は、沢木耕太郎さんの解説文で触れられていたことで、改めて読み直しました。文春文庫版の「父の詫び状」の解説として、沢木さんの文章が載っていますので、ご興味がある方はこちらもぜひ読んでみてほしいです。

目次

全体の感想

向田邦子さんは、有名な放送作家だった方ですね。
エッセイや小説も書かれていて、有名な作品が数多くあります。
残念ながら、テレビ番組は観たことがほとんどないのですが、著作については何冊か読んでいます。

「静か」で「暗い」というのが、私の持った一読後の印象です。
そして、少し捉えどころがなく、フワフワしたような心持になりました。
これだけだと、読んでみたいという気持ちになりにくいかもしれませんが、
読むと、不思議と気持ちが落ち着く作品でもあります。
そのためか、読み返すことの多い作品となっています。

キーワード3選

本作品のキーワードは以下の3つだと思っています。

  1. 水筒に入った甘い紅茶
  2. お盆
  3. 時間

1.水筒に入った甘い紅茶

向田さんが小学生の頃の思い出で、向田さんのお父さんが向田さんの男の子の友人に紅茶を飲ませてあげるシーンがあります。
この描写を読むと冷たい紅茶の甘さが、口に広がる感じがするのです。とても印象的な描写です。
お父さんが向田さんの友人に対して持っている感情が伝わってきたのを覚えています。

2.お盆

本作品は、向田さんが「お盆の時期に思いをはせるもの」というテーマを背景にして書かれています。
お盆は、祖先の霊を祀る行事です。
あまり華やかではない、暗さや静かさを持つ要因となっています。

3.時間

過去に出会った人達との思い出がさりげない感じで淡々とつづられていきます。
本作品が書かれた時点で、一人ずつと過ごした時間は遠いむかしのこととなっています。
過ぎた時間によるへだたりというものを感じさせるように思われるのです。
過ぎ去った時間に対して思う複雑な感情は誰にでもあるものではないでしょうか?
時間に対する感情という点で、共感を呼ぶ作品だと思うのです。

印象に残った文章

なすびの馬も送り火精霊流しも、俳句の季題として文字の上の知識に過ぎず、自分の身近で手をそえてしたことは一度もない。

>「父の詫び状」(文藝春秋)より引用

本作品の寂しさを象徴するような一文ではないかと考えています。
お盆の行事を故郷と結び付けていた向田さんの心情が表れています。
本作品は、実態のつかめないお盆を通しての思い出のエッセイなのだと思うんですね。
だから、読後感が少しフワフワした感じがするのではないかと。

おわりに

冒頭でも触れましたが、本作品は「父の詫び状」というエッセイ集に収められています。
向田さんのエッセイ集は何冊かありますが、「父の詫び状」が一番読みやすいのではないかなと思います。
「ねずみ花火」以外にも印象的な作品がたくさん収録されています。
ぜひ手に取ってもらいたい1冊です。

 


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