はじめに
本書は、ヨーロッパのサッカー(フットボール)についての本です。
主に2000年代のヨーロッパのサッカーシーンが分かる内容になっています。
宇都宮さんはワールドカップやEUROなどの大きな大会の記事も書かれています。
本書を知ったきっかけはそちらでした。
本書は、サッカーの世界の表側ではなく、裏側に焦点を当てています。
チャンピオンズリーグやワールドカップの試合を中心にはしていないんです。
東ヨーロッパ(旧共産圏)や小さな国でのサッカーを特に重点的に取材の対象としています。
ヨーロッパサッカーがピラミッドのような構造を持っていることが分かるんですね。
その中を生き抜く選手の強さ、期待しているコーチや裏方の人々、ファンの気持ちが伝わってきます。
そして、本書から分かることは、いろいろな場所に様々なかたちのサッカーがあることだと思いました。
世界中のサッカーを追いかける旅の面白さを描いた本だと思います。
目次
全体の感想
サッカーが中心ですが、旅、歴史、文化、国家、政治といったものが合わせて見えてきます。
ヨーロッパの歴史とサッカーは切り離せないということが分かると思います。
ワールドカップや欧州選手権、チャンピオンズリーグなどの華やかな舞台の裏側が分かります。
トップレベルにたどり着く選手のあまり知られていないような一面も垣間見れました。
特に、東ヨーロッパ出身の選手のアマチュア時代は、大変な思いをしてきたことが分かります。
国家の変動の中から出てきた選手たちの強さを感じました。
2000年代の初頭、世界の在り方が変わってきたのが本書を通して見えてきます。
印象に残った選手3選
本書の中で印象に残った選手3人について書きたいと思います。
ルカ・モドリッチ
クロアチア代表の選手です。(2021年も現役の選手ですね。)
2006年ワールドカップでクロアチア代表は日本代表と対戦しました。
試合前の取材ということでクロアチア代表の選手についての1篇となっています。
モドリッチは、ユーゴスラビアの内戦を経験したサッカー選手です。
彼の過去からは、バロンドールに選ばれたモドリッチの心身の強さの理由が分かると思います。
また、この1篇はレアル・マドリードに移籍する前の若い時代のお話になっています。
当時の代表チームのチームメイトであったニコ・クラ二チャールの方が有望な選手といった感じで書かれているのですが、
クラ二チャールは怪我によって、大きく成功することはできませんでした。
スポーツの世界ではよくあることだと思います。
モドリッチは、レアル・マドリードの中心となり、2018年にワールドカップで準優勝し、バロンドールに選ばれる。
2021年に読むと、また違った味わいがあります。
アンドリー・シェフチェンコ
シェフチェンコは、ウクライナのサッカー選手であった人物です。
ACミランに所属していた頃には、バロンドールにも選ばれています。
選手として育ったのは、旧ソ連の育成システムの中だったんですね。
ウクライナの歴史からも、当然ではあるのですが、意外な印象もありました。
東欧の育成システムの中から出てきた選手が西欧のサッカーの舞台を席巻していたんですね。
シェフチェンコがチェルノブイリと関連があったことにも驚きました。
旧ソ連、ウクライナの歴史との関連も深い選手だったのだな、と思います。
引退した後に、シェフチェンコはウクライナ代表の監督にもなっています。
本当に、ウクライナのサッカー、そして、一部ではあれど、ウクライナの社会に欠かせない存在なのだなと思います。
ミヒャエル・バラック
ミヒャエル・バラックはドイツ代表の中心選手であった人物です。
彼は、旧東ドイツのゲルリッツの出身です。
ドイツ代表はサッカー強豪ですが、その歴史は旧西ドイツによるものです。
旧東ドイツは、サッカーの世界では、あまり強くはなかったんですね。
旧東ドイツのサッカーの歴史や実情が書かれた1篇の中で、バラックについても触れられています。
バラックは、2000年代のドイツ代表には欠かせない選手でした。
ドイツサッカーが一時低迷した時期に代表チームを牽引していた人物です。
(低迷といっても、ワールドカップでは準優勝したりしてはいますが...)
2006年のドイツワールドカップでも活躍しています。
統一ドイツの中心が東ドイツ出身というのは、不思議な縁だなと思いました。
バラックは、カイザースラウテルン、バイエル・レバークーゼン、バイエルン・ミュンヘンなどのドイツのクラブで活躍した後、イングランドのチェルシーに移籍するんですね。
ドイツに留まらずに、プレーした。そこも印象に残っていますね。
印象に残った文章
'それはフットボールの世界における、時の移ろいやすさ、である。'
宇都宮さんが、本書を書くにあたって痛感したこととして書かれています。
移ろいやすさは、どの世界でも存在すると思います。
一つのものごとに着目すると、特にそう思えるのかもしれません。
サッカーは特にその側面が顕著なのかなと、本書を読んで思いました。
歴史の中で国家がどんどん変わり、サッカーは変わらず続いてきました。
その対比がそう思わせるのかな、と。
おわりに
印象に残った3人の選手の共通点を考えてみたのですが、以下の点がありました。
- 生まれた国家の形が変わった
- サッカー選手として、出身地とは異なる国へ移っていった
- 代表チームの中心選手であった
ヨーロッパの国家というものとサッカー選手という職業の関係を考えさせられました。
サッカーで認められると、国家の枠はあまり関係なくなっているように思います。
しかし、代表チームで試合する場は常にあります。
移籍先のチームや国で認められると、出身国でも認められるんですね。
どちらかになってしまうということはないのが、サッカーの世界です。
(どの世界もそうなのでしょうか?)
国家の形は歴史の中で不定期に変わるけれど、職能で認められると割と国家の枠組みをこえて生活できるようです。
スポーツの世界はそれが顕著に思えます。
サッカーが好きな方、ヨーロッパの歴史が好きな方は楽しめる1冊です。
ぜひ、読んでみていただきたいです。
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