はじめに
「イシノヒカル、お前は走った!」は「敗れざる者たち」に所収されているスポーツ・ノンフィクションの1篇です。
競馬を取り扱った作品となっています。
沢木耕太郎さんが、ダービーを目前にした厩舎に住み込んで取材して書かれています。
厩舎には有力馬である、イシノヒカルがいるんですね。
このような経緯の作品ですから、当然ながら1970年代の日本の競馬の実情が分かります。
競馬が好きな方、スポーツが好きな方にはぜひ、読んでいただきたい作品です。
この作品を読んだきっかけはとくになかったように思います。
なんとなく読み始めたのですが、その面白さにどんどん引き込まれていったの記憶があります。
目次
全体の感想
文章の端々から、沢木さんが若いことを感じられるように思います。
厩舎での生活から感じらっることを新鮮に思っていることが伝わってきて、そこから若さを感じるのではないかな、と。
言葉も少し後年の作品とは違う印象なんですよね。
本作品からは、ダービーがいかに特別であるかが分かります。
関係者が全員、強い思いをもっているんですね。
その思いを読んでいくところの流れがいいんです。
ダービーへの想いを掴めたのは沢木さんが厩舎に住み込んだためだと思います。
取材したことが、十二分に活かされていて、どんどん読み進んでいけます。
取材するものに近づいたことによる凄みを感じさせる一篇とも言えます。
キーワード3選
1.信仰
騎手、厩務員、調教師の家族のダービーへの想いが順に描写されます。
そして、主人公ともいえるイシノヒカルにとってのダービーについても書かれます。
その後に、出てきた言葉が信仰なのです。
ここでの信仰というのは馬に賭けた浅野調教師の姿を表したものです。
執念という言葉に置き換わり、浅野調教師にとってのダービー、イシノヒカルが綴られていくのです。
読むうちに、イシノヒカルが競走馬以上の何かであるように思えました。
2.上田清次郎
ダービーを勝つために、レースで連勝している競走馬を購入したエピソードが語られています。
このエピソードは沢木さんの別のエッセイでも読んだことがあるのですが、この作品の中で書かれると味わいが違います。
競馬というと思い出される、忘れられないエピソードです。
3.追いかける
追いかけるという言葉が、この作品の最も重要なキーワードだと思います。
ぜひ、この言葉を作品の中で読んでいただきたいです。
印象に残った文章
日本ダービーが、天皇賞にも有馬記念にもない熱気を生む理由のひとつは、”たった一度”を持ちうるものへの人々の羨望が、乱反射するからに違いない。
> 「敗れざる者たち」(文春文庫)より引用
ダービーの魅力を十二分に伝えてくれる文章だと思います。
沢木さんのダービー観というものも込められているのではないかな、と。
おわりに
スポーツの魅力が分かる作品だと思います。
ダービーというレースに限らず、競馬に限らず、スポーツの大一番を楽しむ技術が分かる作品ではないでしょうか。
この一篇を読むと、次の沢木さんの一篇が読みたくなります。
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