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【書評】「持てる者と持たざる者と(象が空をⅡ 不思議の果実)」(沢木耕太郎)を読んでの感想

はじめに

この1篇は、競輪の新人選手向けの講演を文章化した形となっています。
語りかける様な文章なんですね。
講演の内容を読めるというのは、貴重なのではないかなと思います。
エッセイ集の中で文体が急に変わって、驚いた思い出があります。
少し、異色な1篇と言えるかもしれません。

内容は、プロスポーツの世界への洞察が存分に含まれた印象深いものとなっています。

目次

全体の感想

まず、スポーツ・ノンフィクションの作品が読みたくなるというのが一読後の感想です。
沢木さんは、プロスポーツからこのような実感を得ていたのかと思いました。
そのエッセンスを凝縮して書かれたのが、スポーツ・ノンフィクションの作品かと思うと、読む楽しさも増すというものです。

本編ではカシアス内藤さんについても書かれています。
沢木さんとカシアス内藤さんといえば、「一瞬の夏」という作品があります。
スポーツ・ノンフィクションが好きな方にぜひ読んでほしい本なのですが、
こちらを読んだ後にこの「持てる者と持たざる者と」を読むと、より楽しめると思いました。

(ちなみに私は本編を読んだ後に「一瞬の夏」を読みました...)

キーワード3選

遅刻

囲碁と遅刻の関係が語られます。
遅刻に対するお詫びと、講話の導入の話ではあるのですが、印象に残る描写です。
プロの世界の厳しさが垣間見れます。

モハメド・アリ

モハメド・アリが何故、チャンピオンになれたのか。
この1点について、沢木さんの考察が書かれています。
信じきることの強さが、そこでは語られています。モハメド・アリは、自分の敗北が自分以外の存在の敗北にもなると信じ、試合に臨んだとされています。
そして、沢木さんはモハメド・アリと、カシアス内藤さんについての考察を書いています。

ある人間が敗れた際に、救いとなる言葉として、運があると沢木さんは語っています。
現在進行形で勝負をしている人間にとって、運というものに頼るのは決して望ましいことではありません。しかし、敗れ、たたかう舞台から去った人間にとって、運というものの意味合いは大きく変わるんですね。
スポーツに限らず、成功できなかった人間にとって、「運」は優しい言葉であるととらえる沢木さんの視線は、スポーツ選手によりそって取材してきた経験によるものではないでしょうか。

印象に残った文章

今日ここで僅かに話すことができそうなのは、プロスポーツを見る中で感じた二,三のこと、というにすぎません。

>「象が空をⅡ 不思議の果実」(文春文庫)より引用

ここからが講演の本筋になるんですね。
謙虚な印象を受けるんですが、本質的なことをここで語るぞという、ちょっと気概みたいなものも感じられるように思うんですね。
また、個人的には、この一文から、沢木さんが感じたことを聴けるというのが非常に貴重な機会であることが改めて思い出されました。
これから本題に入るという臨場感のようなものも漂っている気もするんです。

おわりに

講話の体裁で書かれたスタイルの文章で、まずそのフォーマットが印象に残るのではないかなと思います。はじめはライトな感じなのですが、スポーツの観方の奥深さを味わうことができる1篇です。
競輪選手への講演ということもあり、少し授業のような雰囲気もあるので、いわゆるエッセイとは異なる読み味があります。
沢木さんの作品の幅の広さを感じれる1篇となっています。

 

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