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【書評】「クレイになれなかった男(敗れざる者たち)」(沢木耕太郎)を読んでの感想

はじめに

沢木さんが20代の頃に書かれたボクシングに関するノンフィクション作品です。
ボクシングの歴史と裏側、そして魅力を伝える1篇となっています。
同時に、沢木さんのボクシング観も読み取れます。

この作品は、カシアス内藤さんの韓国での試合を取材したものです。
試合の経緯、カシアス内藤さんというボクサーの背景、そして、試合が描かれます。
こちらを縦軸に、ボクシング関係者のボクシング観、試合への思惑が横軸となって作品は構成されています。
1人のボクサーに可能な限り近づいて、何かを理解しようとする若い沢木さんの姿を読むことができます。

目次

全体の感想

本作品からは、勝つことと敗けることに大きな差があることが分かります。
その差は、かんたんには埋まりません。

勝ったものは手にしたものを手放さないようにあらゆる手を尽くします。
敗けたものは勝って取り戻すためにあがく。
その対比が印象的でした。

勝負をするのは、ボクサーですが、その周囲にはボクシング関係者が数多くいます。
彼らの行動は、冷酷な思考に基づいていることが分かります。
その冷酷さも印象に残っています。

カシアス内藤さんに関わった関係者として、エディ・タウンゼントさんがいます。
エディさんはトレーナーとして、カシアス内藤さんと関わっていました。
本編の主題とは少し離れてしまいますが、エディさんのボクシング観も一読の価値があると思います。

キーワード3選

ジョー・メデル

ジョー・メデルのノックアウトシーンがボクシングの最高の瞬間の一つと感じられます。
一瞬の隙を突き、逆転する。試合を決める瞬間を待つ姿は、ものすごく美しく強いように思われます。
沢木さんのボクシング観を形作った試合だと言えます。

金沢知良

ジョー・メデルと対の存在として、金沢知良さんが描写されます。
自分を全て解放してたたかう姿が、ボクシングのもう一つの極限であるように沢木さんは描きます。
そんな瞬間をもてる人間がどれだけいるのか。
この命題への答えが知りたくてボクシングを見つめ、カシアス内藤の試合を追いかけたのではないかと思うのです。

暗さ

本作品の雰囲気は決して明るくありません。
描かれる人物は華やかな世界にいるわけではないのです。
皆、ボクシングの試合を通して先に進もうとしているんですね。
湿っぽくはないのです。でも、明るくはない。
独特の雰囲気を持つノンフィクションになっていると思います。

印象に残った文章

カシアス内藤はまだボクシングをやめていなかった。なぜだろう。

> 「敗れざる者たち」(文春文庫)より引用

この作品の出発点となっている心情の描写だと思います。
率直な疑問が書かれていて、印象的でした。

おわりに

この作品の主題は、”ボクシングをどう捉えるか”ということだと思います。
登場する人物はボクシング観をそれぞれに持っています。
沢木さんのそれとの差異が、作品の深みとなっています。

ボクシングをやめられない人々の姿を描いた作品とも言えます。
やめられない姿を見つめ、そしてどうやったらやめられるのかと沢木さんは問うているように見えます。

カシアス内藤さんを描いた沢木さんの他の作品に、「一瞬の夏」があります。
「クレイになれなかった男」の後の作品になります。
本作品を読んだ後には、ぜひこちらも読んでいただきたいです。

 

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