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書評のブログ。

【書評】「夢見た空(像が空をⅡ 不思議の果実)」(沢木耕太郎)を読んでの感想

はじめに

本作品は、1984年のロサンゼルスオリンピックについて書かれたものです。
当時は冷戦下で、社会情勢も合わせて描かれています。
冷戦であったことを鮮明に表しているのは、東側諸国のボイコットです。
沢木さんは、不参加を決めたソ連の首都モスクワ、東ドイツの首都東ベルリンを経由してアメリカに向かうんですね。
東側の社会の実情とアメリカで開催された世界的なイベントであるオリンピックの対比が読みどころだと思います。

実力者がいた東側諸国のボイコットはオリンピックにどのように影響を与えたのか。
充分に盛り上がったのか。
何か足りないものはなかったのか。

1984年のオリンピックがどのようなものだったのかが、主題となっています。

目次

全体の感想

東側社会の実情の一面を描いた前半と、アメリカでのオリンピックを取材した後半で印象は変わります。
対比がそれぞれを際立たせていて、特にアメリカ社会の勢いが印象に残ると思います。
アメリカはとにかく豊かで、当時の最先端のテクノロジーでオリンピックを運営しているんですね。
東側とは全く異なる社会であったことが伝わってきます。
一方で、街を出歩くにも危険が付きまとったりするアメリカの現実も書かれています。
西の豊かさの翳り、東の社会の実情が書かれているように思いました。

キーワード3選

カール・ルイス

沢木さんのカール・ルイス観ともいうものが書かれているんですね。
興味深いなと思い、読みました。
本作品の中では際立った箇所とも思えました。

冷戦

冷戦の中のオリンピックであることが最大のテーマとなっています。
東西の対立が社会の動きに影響を逐一与えていたことが分かる作品です。
沢木さんが旅することで体感したことが伝わってきます。

オリンピック

1980年のモスクワオリンピックでは、西側諸国がボイコットをしていることも重要な要素です。
1984年に東側がボイコットしたのは、モスクワオリンピックへの報復であったんですね。
オリンピックの意義についてもストレートに考えさせる作品だと思いました。

印象に残った文章

俺もあそこに行けたのだ。

> 「像が空をⅡ 不思議の果実」より引用

東ベルリンで沢木さんが感じたこととして書かれた文章です。
実感がこもっている一文です。
当時、東側から西側を見た時に感じる思いだったのではないかと思います。

おわりに

スポーツと政治が深く関連して、開催された内容に影響を与えるケースは多くあったと思います。
このような歴史に興味がある方向けの作品であると思います。
1984年のオリンピックが歴史的にみて、どのようなものであったのか考えさせられました。

社会情勢をテーマに含ませ、取材されたことが伝わってくる本作品ですが、同時にスポーツが持っている魅力には抗えないということも伝わってきました。
最高の舞台で力を放とうとするアスリートの姿は非常に印象的なんですね。
次回のオリンピックである、ソウルオリンピックについて書かれた箇所からは希望のようなものを感じました。

スポーツをより広い枠組みで捉えた作品であると思います。