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【書評】「中野のライオン(眠る盃)」(向田邦子)を読んでの感想

はじめに

タイトルからは、どんな内容か想像がつきませんでした。
(向田さんのエッセイはこのようなタイトルが多いようにも思いますが。。。)
一読してみると、じっくりと読めるエッセイでした。

非常に共感できる内容ですし、また向田さんの体験したできごとに引き込まれる作品です。

目次

全体の感想

ああ、そうだな。そう思いながら挿話を一つずつ読み進められると思います。
一番盛り上がるのは、ライオンのお話になりますが、その他の挿話も読みごたえがあります。
父の詫び状から連想された、戦時中の弟さんとのエピソードも印象的でした。

最初は、どんなエッセイなのだろうと思ったのですが、すぐに主旨がつかめ、すっと読み進められました。

キーワード3選

記憶

この一遍の特徴として、昔の記憶を語っているということが挙げられます。
ごく最近のできごとで、こと細かく記憶できているというものではないんですね。
何度も思い出している印象的なできごとを語っています。
昔のことですから、やや自信がない。でも、自分では確実にそうだと記憶している。
このような体験は誰にでもあることだと思います。
向田さんのエッセイの共感をよぶような書き方の真骨頂と言えます。

人に知ってほしいという気持ち

自信のない記憶ではあっても、人に話し、できごとを知ってもらいたいという気持ちは誰しも持つものです。
向田さんも思い出を知ってもらいたいと思っていることが伝わってきます。
しかし、分かってもらえないもどかしさも書かれています。
このエッセイの裏側にあるテーマは、伝えたいというものだと思います。
ものすごく重大なできごとではなく、少し特徴的な小さい出来事である点が、向田さんのエッセイらしいんですね。

日常の描写

記憶に残っているのは、些細であっても事件ではあります。
この事件の描写は、日常を丁寧に描くことから始まっています。
いきなり印象的な部分から始まらないのですが、退屈することなく、文章の世界に引き込まれます。
向田さんのエッセイの持ち味の一つではないかと思います。

印象に残った文章

記憶や思い出というのは、一人称である。
単眼である。

「眠る杯」(講談社文庫)より引用

このエッセイの本質を表した一文としてこれ以上のものはないと思います。
単眼という言葉のチョイスがいいなと。
なかなか出てこない表現ではないでしょうか。

おわりに

向田さんらしいエッセイだと思います。
日常の些細な感覚をいくつかの挿話をもとに描いています。
最後は、一歩ひいた感じで終わるのも落語にも似た独特の味わいがあります。

このエッセイには、もう一つ大きな特徴があるんです。
実は、続編のエッセイとして、「新宿のライオン」というのがあるんですね。
本作品の挿話の一つして書かれたライオンのお話にまつわる後日譚が書かれています。

一つのエッセイから広がった新しいエピソードも非常に楽しく読める一遍となっています。
ぜひ、2つの作品を続けて読んでいただきたいなと思います。

 

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