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書評のブログ。

【書評】「苦い報酬(像が空をⅠ 夕陽が眼にしみる)」(沢木耕太郎)を読んでの感想

はじめに

本作品は、沢木耕太郎さんによるトルーマン・カポーティについての論評ともいうべきものです。
私は、トルーマン・カポーティという作家をこの文章で初めて知りました。
うっすらと知っていた「ティファニーで朝食を」という小説の作者であることと、「冷血」という著名なノンフィクション作品の作者であること。
この2点が一読後に最も記憶に残ったことでした。

2回、3回と読むうちに緻密な作家論が展開されていることに圧倒されました。
一人の作家の作品の遍歴から、創作の裏側を読み解く文章は読むうちにどんどん引き込まれます。

目次

全体の感想

沢木さんの深い洞察に圧倒され、飲み込まれるような印象さえ持ちました。
作品の中に流れを見出し、作風の変化の分岐点を指摘しています。
ご自身が文章を書かれていることから、技術についての論評には説得力があります。
一人の作家を追いかけて読み続けることの魅力を感じられる一遍だと思います。

キーワード3選

文章のスタイル

何気なく本を読んでいると、見落としがちなことですが、著者は文章のスタイルについて深く考えて書いているんですね。
カポーティが文章のスタイルを追い求めていたことを沢木さんは指摘しています。
革新的なスタイルを見出して、発表することは作家の方にとって代え難いものであることが伝わってきます。

「冷血」

実際に発生した殺人事件をカポーティが徹底的に取材して書かれた作品です。
ノンフィクションライターにとっては、重要な作品であったそうです。
この一遍から、「冷血」が沢木さんにとっても避けられない一冊であったことが分かります。

名声

有名な作家となったことがカポーティの作家としての遍歴で重要な要素となっていることが指摘されています。
文章のスタイルを追い求める作家としての生き方とは、別に華やかな交友を楽しんでいたんですね。
沢木さんは、カポーティが作家として実現できたこととできなかったことを明確に分析しています。

個人的には、カポーティという作家がとらえどころのないような作家であるという印象も持ちました。
同じ時代に生活をしていないと分からない部分もきっとあるのだろうと思います。
いずれにしても、当時を代表する作家であったことが伝わってきます。

おわりに

本を読み、一人の作家を知ることの魅力を十二分に伝えている文章だと思います。
一人でもそのような読書の体験ができることは豊かなことなんじゃないかと思うんですね。

トルーマン・カポーティの本を読みたくなることは間違いない文章です。
さらに、沢木さんが書かれた他の作家の方についての文章も読んでみてほしいです。
(作家論がまとめられた「作家との遭遇」がおすすめです。)