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【書評】「ジム(王の闇)」(沢木耕太郎)を読んでの感想

はじめに

ボクサーであった大場政夫さんについて書かれた作品です。
彼は、世界フライ級チャンピオンだった23歳の時に、交通事故で亡くなっています。
その足跡を、所属ジムで世話をしていた長野ハルさんの視点を中心に描いた作品になります。

目次

全体の感想

大場政夫という魅力あるボクサーについて知ることができる作品といえます。
生い立ちから、チャンピオンになるまで、そして、事故までの経緯が書かれています。
長野ハルさんという大場さんにとってなくてはならない存在であった女性についても詳しく書かれており、日本のボクシングの歴史の1ページを読み解くような側面もあり、読み応えがあります。

キーワード3選

丁寧

長野ハルさんの語り口を用いて書かれている箇所がすごく丁寧なんですね。
本人の言葉を直接聴いているような印象を持ちました。
場面の切り替えと同時に丁寧な語り口に引き込まれます。
大場政夫のストーリーは主に長野ハルさんの言葉として語られており、リアリティを大いに感じられます。
最も身近な人の言葉だからこそ、大場さんの描写が丁寧に書かれている印象を受けるのだと思います。

視点

本作品は、大きく分けて3人の視点から書かれています。
沢木さん、長野ハルさん、そして大場さんの父親です。
沢木さんの視点は客観的なもので、あくまでも第三者からみた大場政夫を描いています。
残りの二人は、大場さんに非常に近い場所にいました。
作品中、長野ハルさんの言葉として書かれた箇所が多く、大場政夫というボクサーのボクサーとしての人生は彼女の視点から書かれています。
関係の深さや、長野ハルさんにとって大場さんがどのような存在であったかが非常に詳しく語られています。
一方で、本来最も関係が深いはずの父親との関係は複雑なものであったことが書かれています。
大場さんについて深く知る人間の間で見えているものの違いが浮き彫りになっているところは、読みどころの一つなのではないかと思います。

大場政夫

この一遍が書かれたのは大場さんの死後なので、当然ながら取材はされていません。
実際に大場さんがどのような心境であったのかは、書かれていないんですね。
複数の視点を結んだ先に浮かぶ大場政夫という人物像も、内面には踏み込んではいないと言えます。
偽りのない心情を聞き取っていないから、不足だとは思いません。
作品の奥にはまだ、すくいあげられていない事実や、想いがあったことは間違いありません。

印象に残った文章

"わたしにとって大場がかげがえのない大事な子だったとしたら、それは何よりもあの子が傑出した才能を持っていたからだと思う。"

「ジム」(文春文庫)より引用

長野ハルさんが、大場さんがもし、ボクサーとして才能がなかったとしても、同じような関係を築けたかと質問された際の回答です。
才能があって、大場さんとの思い出は成り立ったのだという言葉は、勝負の世界の厳しさを物語っています。
理想のボクサーであったからこそ、多くの思い出や強い思い入れがあったということなんですね。
深い絆がありながら、家族とは明らかに異質であったことが分かり、冷たさを感じました。

おわりに

日本のボクシングの歴史に残るエピソードを味わうことのできる一遍だと思います。
ボクシングが好きな人には是非読んで頂きたいです。

 

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