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書評のブログ。

【書評】「長城のかげ(長城のかげ)」(宮城谷昌光)を読んでの感想

はじめに

宮城谷昌光さんの短編集の中の作品です。
漢を興し、皇帝となった劉邦の幼なじみの男を主人公にした一遍です。

劉邦のストーリーは有名ですが、盧綰という人物に関しては、詳しく知りませんでした。
生まれた時から、劉邦と一緒に過ごしてきた人生はとても興味深いものでした。

目次

 

全体の感想

無駄のない言葉が続いて、すっと古代中国の世界に引き込まれます。
一文ずつは短いのに、心情を想像するのに全く不足しない。
むしろ、余計に想像をしてしまうくらい、人物の描写が素晴らしいです。

キーワード3選

タイトル

長城のかげというタイトルが、ストーリー全般を表すのにぴったりと当てはまっていると思いました。
盧綰が行きついた先と、人生を通してどんな存在だったかが重なる表現だな、と。

友情

劉邦と盧綰は性格的には全く異なっています。
異なる個性がぶつかるかというとそういうことでもなく、盧綰は劉邦についていくような生き方をするんですね。
幼なじみとはいえ、変わった生き方です。
古代中国の風習や社会がそうさせた部分もあるとは思いますが、二人の友情というものは環境の変化があっても維持されていきます。

劉邦

劉邦の心情というものはほとんど書かれていません。
周囲の人物が想像し、その行動を決めていたということを描いているように思います。
集団を統率する人物の周囲の人物の物語として読むと、ぐっとリアリティが増す部分もあるのではないでしょうか。

印象に残った文章

"「もっとあざやかにやれ」"

「長城のかげ」(文春文庫)より引用

劉邦が、盧綰に手柄を立てさせた後に、盧綰に対してかける言葉です。
古くからの友人に対して恩を報いたのに、素直に喜ばない人物として描かれています。
二人の距離感が描かれているようで、印象に残りました。

おわりに

とても読みやすい一遍だと思います。
司馬遼太郎さんの作品が好きな人は好きになるんじゃないかなと思います。

歴史小説が好きな方におすすめの作品です。