はじめに
劉邦と項羽の戦いのクライマックスの部分が描かれた作品です。
描かれるのは、表ではなく、裏。
項羽の姿が中心ではなく、項羽の配下の武将、季布の物語になっています。
目次
キーワード3選
逃げることについての深い洞察を感じる
戦場から逃げる人間の心理が細かく描かれます。
どう思い、判断し、行動するのか。
逃げることをを深く具体的に考えたことがなかったので、面白く読めました。
そして、逃げ方を説くのは、劉邦なんですね。
追うものが逃げ方を熟知していたという構図も読み応えにつながっていたな、と。
劉邦
劉邦は、季布にとって最大の敵です。
季布は、項羽を信じて戦いますが、敗れてしまう。
逃げた先にいたものが劉邦であるという史実は何とも皮肉です。
劉邦と季布との対話の場面も秀逸で、印象に残っています。
老人
逃亡中に迷った季布に道を示す人物がいます。
全てを知っているような口ぶりで道を示す姿は異様ですが、どこか信頼できるような雰囲気なのです。
仙人を思わせるような人物が現れることで、古代中国の不思議な情景が浮かび上がるように思いました。
印象に残った文章
"「そんないい馬をつれて歩いていたら、めだつぞ。」"
「長城のかげ」(文春文庫)より引用
道を示してくれた老人の言葉です。
本気で逃げようと思い、逃げ方を知っていたなら、目立つことを最も嫌うはずです。
そうしない季布が逃げなれていないこと、そして、逃げる気持ちが薄いことを示す場面となっていたように思います。
老人に示された道は、季布にとって目的地となります。
老人の正体は分かりませんが、季布にとっての大きな転機を運んだ会話の中の言葉として印象に残っています。
おわりに
始めの一文から物語の世界、戦場の真っ只中におかれたような気持ちにさせられた作品でした。
逃げた先でどうなっていくのかという、展開にも引きこまれます。
古代中国の雰囲気も漂い、豪傑も次々に登場し、歴史上の人物の凄みにも触れられる。
劉邦と項羽の物語を知らなくても十二分に楽しめるのではないでしょうか。
おすすめの短編です。