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書評のブログ。

【書評】「遠い太鼓」(村上春樹)を読んでの感想

はじめに

村上春樹さんが1980年代後半にヨーロッパに滞在していた時に書かれた旅行記です。
当時書いていた小説として、「ノルウェイの森」、「ダンス・ダンス・ダンス」が出てきます。
小説を書いていた時期の心境を知ると、やっぱり読んでみたくなりますね。
ヨーロッパで住む場所を変えながら、小説を書かれたということに驚きました。

この次にアメリカで過ごした時期に書かれたエッセイも読んだことあったので、こちらの方が異国に対しての新鮮な気持ちが伝わってきました。

30年以上前の話なので、時代の違いも随所から感じられます。
スマホもないし、ワープロがあったとはいえ、小説を手書きで書いている場面もありました。
日本社会も今とは違った雰囲気であったことが伝わってきます。

目次

キーワード3選

ギリシャとイタリア

生活の拠点としていたギリシャとイタリアという二つの国で感じたことが対照的に描かれています。
同じヨーロッパですが、歴史、社会、国民性の違いが伝わってきます。
特にイタリアで生活する大変さは強烈でした。
住む場所を変えながら、生活をしているのですが、都度起きる事件からそれぞれの特徴が浮き彫りになります。
どちらも観光が有名な国という印象を持っていたのですが、明らかに違うなと思いました。
1980年の後半ですから、今はまた違うのかもしれません。
歴史的な部分も含めて興味深く読めました。

旅と生活

旅をしている時間と生活をしている時間が同居しているんですね。
移動を中心にして出会ったことを味わっているのが、旅。
日々の繰り返しの中で過ごしているのが生活。生活はやはり、文筆業が中心になっています。
外国で過ごすと一口に言っても、旅と生活では違いがあるのだな、と思いました。
ただ、長く過ごすのではなく、生活を営むことは難しそうですね。
イタリアで長く過ごした後に、オーストリアやスイスに旅行するお話があるのですが、
生活から旅に切り替わっている感じが伝わってきました。
異国で過ごしながら、生活と旅は気持ちの上でここまで違うのだな、と感じしました。

日本と外国

時々、日本に帰国していたことが書かれています。
やはり住みやすさが違うことが伝わってきます。
表現は控えめであると思いますが、実感が実にこもっているな、と。

おわりに

ヨーロッパ、特にイタリアに興味がある人は楽しめると思います。
村上春樹さんの小説を読む前に読むと、小説をもっと楽しめるかもしれません。
村上さんのエッセイは、他の旅行以外のものも楽しく読めるので、読んでみてほしいです。

長い旅行記なのですが、思ったよりもさらっと読めました。
文章の読みやすさもありますし、事件が数多く起きていたので、飽きさせないんですね。

今と違うことが興味深く読めたのかもしれないと思います。
今の便利さは確実にない時代の旅の記録ということを感じさせられました。