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書評のブログ。

【書評】「何進(三国志名臣列伝 後漢篇)」(宮城谷昌光)を読んでの感想

はじめに

中国の漢(後漢)の時代の人物について書かれた短編です。
主人公である何進は、元は肉屋の倅であったのですが、妹が皇后となったことにより、宮中にはいり、将軍にまでなります。
理解しがたい出世の話です。
何進は宮中で能力を発揮し、やがて始まる漢の終末の動乱に巻き込まれていきます。
古代の中国らしく、権力の奪い合いや謀略が数多くめぐらされ、その中を何進は進んでいくのです。

あまり、詳しくはないのですが、三国志にも何進は登場します。
序盤に出てくる人物ですが、ここまで深く掘り下げられているのには、正直驚きました。

運命に翻弄されるように、国が壊れていく様を止める旗振り役となった何進の物語です。

目次

キーワード3選

血縁

何進が出世できたのは、何よりも妹が宮中にはいり、皇后となったおかげです。
動揺に何進の家族は宮中に入り、それまでとは別世界と言ってよい暮らしをするのです。
また、妹が皇帝の子を産んだことにより、次代の皇帝を選ぶ争いにも巻き込まれます。
血縁が重要視され、家族の生きざまがお互いに大きく人生へ影響する様相は、異様にも思えました。

人の不合理さ

合理的に生きられない人々の姿も印象に残ります。
自分の全財産を娘のために賭けてしまう何進の母親の姿が最たるもののように思えました。
欲に忠実であるといえばそれまでですが、理解しがたい部分もあります。
客観的に、見つめていた何進が出世したというのも、何とも興味深いことです。

袁紹

何進三国志の史実の中で、はやくに暗殺されてしまいます。
袁紹は、何進により官途につき、協力して宦官を抑えようとした間柄です。
何進は歴史の舞台からは去りますが、袁紹大きな物語の中に身を移していくのです。
2人の運命からは、史実の面白さが感じられると思います。

おわりに

三国志の始まりのストーリーでもあるなと思いました。
何進という人物への関心はあまりなかったのですが、このような興味深い人物がいたのかと驚きました。
史実には多くの人物がいますが、それぞれの物語を追っていくと、歴史を多面的に捉えられることが分かります。
歴史の面白さが凝縮された、楽しめる作品だと思います。

【書評】「長城のかげ(長城のかげ)」(宮城谷昌光)を読んでの感想

はじめに

宮城谷昌光さんの短編集の中の作品です。
漢を興し、皇帝となった劉邦の幼なじみの男を主人公にした一遍です。

劉邦のストーリーは有名ですが、盧綰という人物に関しては、詳しく知りませんでした。
生まれた時から、劉邦と一緒に過ごしてきた人生はとても興味深いものでした。

目次

 

全体の感想

無駄のない言葉が続いて、すっと古代中国の世界に引き込まれます。
一文ずつは短いのに、心情を想像するのに全く不足しない。
むしろ、余計に想像をしてしまうくらい、人物の描写が素晴らしいです。

キーワード3選

タイトル

長城のかげというタイトルが、ストーリー全般を表すのにぴったりと当てはまっていると思いました。
盧綰が行きついた先と、人生を通してどんな存在だったかが重なる表現だな、と。

友情

劉邦と盧綰は性格的には全く異なっています。
異なる個性がぶつかるかというとそういうことでもなく、盧綰は劉邦についていくような生き方をするんですね。
幼なじみとはいえ、変わった生き方です。
古代中国の風習や社会がそうさせた部分もあるとは思いますが、二人の友情というものは環境の変化があっても維持されていきます。

劉邦

劉邦の心情というものはほとんど書かれていません。
周囲の人物が想像し、その行動を決めていたということを描いているように思います。
集団を統率する人物の周囲の人物の物語として読むと、ぐっとリアリティが増す部分もあるのではないでしょうか。

印象に残った文章

"「もっとあざやかにやれ」"

「長城のかげ」(文春文庫)より引用

劉邦が、盧綰に手柄を立てさせた後に、盧綰に対してかける言葉です。
古くからの友人に対して恩を報いたのに、素直に喜ばない人物として描かれています。
二人の距離感が描かれているようで、印象に残りました。

おわりに

とても読みやすい一遍だと思います。
司馬遼太郎さんの作品が好きな人は好きになるんじゃないかなと思います。

歴史小説が好きな方におすすめの作品です。

【書評】「ジム(王の闇)」(沢木耕太郎)を読んでの感想

はじめに

ボクサーであった大場政夫さんについて書かれた作品です。
彼は、世界フライ級チャンピオンだった23歳の時に、交通事故で亡くなっています。
その足跡を、所属ジムで世話をしていた長野ハルさんの視点を中心に描いた作品になります。

目次

全体の感想

大場政夫という魅力あるボクサーについて知ることができる作品といえます。
生い立ちから、チャンピオンになるまで、そして、事故までの経緯が書かれています。
長野ハルさんという大場さんにとってなくてはならない存在であった女性についても詳しく書かれており、日本のボクシングの歴史の1ページを読み解くような側面もあり、読み応えがあります。

キーワード3選

丁寧

長野ハルさんの語り口を用いて書かれている箇所がすごく丁寧なんですね。
本人の言葉を直接聴いているような印象を持ちました。
場面の切り替えと同時に丁寧な語り口に引き込まれます。
大場政夫のストーリーは主に長野ハルさんの言葉として語られており、リアリティを大いに感じられます。
最も身近な人の言葉だからこそ、大場さんの描写が丁寧に書かれている印象を受けるのだと思います。

視点

本作品は、大きく分けて3人の視点から書かれています。
沢木さん、長野ハルさん、そして大場さんの父親です。
沢木さんの視点は客観的なもので、あくまでも第三者からみた大場政夫を描いています。
残りの二人は、大場さんに非常に近い場所にいました。
作品中、長野ハルさんの言葉として書かれた箇所が多く、大場政夫というボクサーのボクサーとしての人生は彼女の視点から書かれています。
関係の深さや、長野ハルさんにとって大場さんがどのような存在であったかが非常に詳しく語られています。
一方で、本来最も関係が深いはずの父親との関係は複雑なものであったことが書かれています。
大場さんについて深く知る人間の間で見えているものの違いが浮き彫りになっているところは、読みどころの一つなのではないかと思います。

大場政夫

この一遍が書かれたのは大場さんの死後なので、当然ながら取材はされていません。
実際に大場さんがどのような心境であったのかは、書かれていないんですね。
複数の視点を結んだ先に浮かぶ大場政夫という人物像も、内面には踏み込んではいないと言えます。
偽りのない心情を聞き取っていないから、不足だとは思いません。
作品の奥にはまだ、すくいあげられていない事実や、想いがあったことは間違いありません。

印象に残った文章

"わたしにとって大場がかげがえのない大事な子だったとしたら、それは何よりもあの子が傑出した才能を持っていたからだと思う。"

「ジム」(文春文庫)より引用

長野ハルさんが、大場さんがもし、ボクサーとして才能がなかったとしても、同じような関係を築けたかと質問された際の回答です。
才能があって、大場さんとの思い出は成り立ったのだという言葉は、勝負の世界の厳しさを物語っています。
理想のボクサーであったからこそ、多くの思い出や強い思い入れがあったということなんですね。
深い絆がありながら、家族とは明らかに異質であったことが分かり、冷たさを感じました。

おわりに

日本のボクシングの歴史に残るエピソードを味わうことのできる一遍だと思います。
ボクシングが好きな人には是非読んで頂きたいです。

 

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【書評】「センチメンタル・ジャーニー(路上の視野Ⅰ 紙のライオン)」(沢木耕太郎)を読んでの感想

はじめに

ベルリンオリンピックの時代にボートレースに出場した選手の方について書かれた作品です。
インタビューされた内容を元にした構成となっています。
練習として参加したロンドンでのレースや、レースの舞台裏も描かれています。

目次

 

キーワード3選

ボートレース

ボートレースという競技に馴染みはありませんでした。
描写されるレースから魅力的なスポーツであるように思えました。

スポーツ草創期

何でも同じだと思うのですが、ある分野の草創期に関わった人達には大変な苦労があったということが分かります。
草創期ならではの、本場であるヨーロッパとの格差や、日本ならではの工夫も興味深かったです。

タイトル

全編、読み終わってからタイトルを見返すとさらに味わい深いなと思いますね。
若い時代をどこか客観的に観て、味わっている、そんな雰囲気を感じました。
40年以上経ってから、レースに参加したロンドンにメンバーと一緒に向かうということに関して、曇りなく肯定できているところが、清々しいな、と。

おわりに

ベルリンオリンピックの開催は1936年のことですから、80年以上前の話なんですね。
取材の時点で古い話という言葉が出てきますから、とても昔の出来事なんだと感じさせられます。
このインタビュー自体に歴史的な価値があるのではないでしょうか。

オリンピックのスポーツ草創期のエピソードとしてたのしめる一遍だと思います。

【書評】「視ることの魔(路上の視野Ⅰ 紙のライオン)」(沢木耕太郎)を読んでの感想

沢木耕太郎さんがスポーツの視方、そして、取材論について書いている作品です。
特に若い方が読むと、スポーツの楽しみ方を知ることができて、プラスになるのではないでしょうか。

スポーツの楽しみ方を知りたければ、読むといい作品だと思います。
思い込むことの重要性、いかに愉しむかを突き詰めていく方法論が書かれています。

スポーツという枠を敢えてとりはらい、汎用的な「たのしみかた」というものとして捉えなおすと、
以下のようになるのではないかと思いました。

1.思い込む
2.ものごと自体に近づく
3.そこに何がかかっているかを理解する
4.自然に愉しむことは不可能だと理解する
5.最高の瞬間があることを知る
6.過程の意味合いをしっかりと読み解く

この作品で書かれていた愉しみ方の方法論は、スポーツであるから、イメージしやすかったことが分かります。
汎用的に応用するのは少し難しいかもしれません。

何かスポーツを見たくなる作品です。
大きな大会の前に読むと、よいかな、と。

【書評】「写す人(霊長類ヒト科動物図鑑)」(向田邦子)を読んでの感想

はじめに

向田さんが写真について書いたエッセイです。
写真を撮る側になった際に見えた風景を描写しています。
独特の視点で写真について語る楽しい一遍です。

目次

キーワード3選

動物

外国の動物園の写真を撮影する際の描写です。
人工的な空間で飼われている猛獣の姿が何だか物悲しいんですね。
人の心の細やかな機微をとらえるのと同様に動物園という場所の本質も描き出しているような文章です。

旅は写真を撮る機会が多いものです。
向田さんも旅の中で写真を撮っていたようです。
旅行者が入り込めない空気感を淡々と描いています。

写真

日本人に写真が馴染むまでの時間について書いています。
向田さんの年代の方だと、写真について多くを感じていたのだろうな、と思います。
当たり前でなかったものが、当たり前になっていくことを多く見てきたのだと思います。
その一つに写真があったのだな、と。

印象に残った文章

'...私が虎なら、その場で脱走してみせます、という代物であった。'

タイの動物園の虎の檻を評しての一文です。
軽妙で、何だかいいんです。
脱走してみせます、という言い回しが好きですね。

おわりに

さらっと読める、一遍です。
旅のエッセイですが、写真を撮るという部分で独特のアクセントが入っていますね。
疲れたときに軽く読める作品ではないでしょうか。

 

【書評】「なかんずく(霊長類ヒト科動物図鑑)」(向田邦子)を読んでの感想

はじめに

向田邦子さんが子供と言葉について書いたエッセイです。
言葉への感覚が独特で、かつ鋭いんですね。
分かるなあと、うなづきながら読める一遍です。

目次

キーワード3選

言葉を覚える、使う、繰り返す

子供が新しい言葉を覚える際に何度も使う姿が描かれます。
とても微笑ましい描写です。
向田さんの子供への視線というのが優しいいんです。

英語を学ぶ

向田さんの言葉の体験談として、英語を学んだ際のお話が出てきます。
何だか、うまく使えず、もどかしい。
そんな体験が自分にあったことのように思えます。
読み手の共感を引き出す向田さんらしいエピソードです。

言葉

この一遍を読んでいて感じるのは、向田さんが言葉を好きなんだなということです。
職業柄、ということもあるとは思いますが、やはり言葉に関心を持ったひとだったんだろうなと思うんです。

印象に残った文章

こうなっては証文の出し遅れである。

「霊長類ヒト科動物図鑑」(文春文庫)より引用

言葉を使いそびれたときの感覚を言い表した表現です。
的確で、すごく印象に残っています。
正直、前後の文脈を抜きにして覚えてしまっています。

おわりに

冒頭は日記のように始まり、最後に明確な結論があるということでもない。
日常で感じることをつらつらと書いたように感じるかもしれない一遍です。
でも、向田さんにしか書けない感覚が詰まった作品だと思います。