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書評のブログ。

【書評】「するりベント酒」(久住昌之)を読んでの感想

はじめに

久住昌之さんがコロナの時期に書いた、弁当とお酒について書かれた食事に関するエッセイです。


目次

 

キーワード3選

 

日記的であること

ページを捲るごとに、日常の記録であることが伝わってくるんですね。
同じ1日、食事はないということが改めて認識されるというか。
もちろん、お弁当、お酒を毎回変える工夫はされていますし、変化をもたらすための工夫の描写もあるんです。
そこが味わい深いとも言えるし。
でも、些細なことで、予定が覆ったり、思わぬ出来事に出会ったりしている。
食事にフォーカスされてはいるけど、日常ってこんなことが起こるんだよな、と感じたんですね。
1人で食べるお弁当というのは、地味にも思えるんですが、鮮やかで。
日常の中の小さな彩りが記録されたことで重みを持ってくるってのがあるんじゃないかな、と。

コロナの時期であること

こんな時期もあったなと思いました。
同じような時間を過ごしていたなと、思い出されるんですね。
特に当時、目にしていた言葉が活字になって文章にのってくると、少し客観的なことになった不思議な感じがします。

移動

お弁当を食べる場面が移動中であることも多いんですね。
久住さんがいろいろな場所に行かれて、お仕事をされているということなんですが。
日記の中で移動というと、特別なことという感じがすると思うんです。
しかし、これだけ続けて書かれていると、日常なんだな、と自然に思えてきます。
あまり、特別感がなくなるというか。
日記のように書かれたものの中に、旅という非日常を含めることで、多面的な感じを持たせているように思えました。
そこが肩肘はった感じでなく、自然になっているんですね。
独特の読み味はこんなところにもあるのではないでしょうか。

おわりに

読みやすくて、すっと読める本でした。
そして、不思議と何回も読み返せるんですね。
久住さんの文章が好きな方にはぜひ読んで頂きたい一冊です。

【書評】「本当の翻訳の話をしよう 増補版 (新潮文庫)」(村上春樹、柴田元幸)

翻訳について、村上春樹さんと柴田元幸さんが語り合った内容を中心にまとめた本になります。
アメリカ文学からの翻訳作品についての考察、翻訳の技術論、日本における翻訳文学の歴史と内容はかなり盛沢山です。
翻訳という者の全体像、文化として翻訳がどういうものなのかまで考えさせられてしまいました。(オーバーかもしれないですが。)

本の大部分では、お二人の翻訳された作品を中心に、アメリカの作品が語られています。
個人的には、村上さんの視点からの作家さんについての考察は非常に興味深いですね。
時代や、社会背景によってどのような位置付けだったのかというのは、やはり興味がわくところなので。

一般的に小説を読むときには様々な要素を取り込むことになると思うんですね。
作品を取り巻く社会、歴史、文化、年代、言葉など。
その中に"翻訳"と要素を加えてもらったように思いました。
端的に言えば、翻訳された本を読みたくなった。

どのような思考を経て、異なった言葉で書かれた作品が、日本語の文章として組みなされているのか。
想像するのも難しいのですが、お二人の対談の中でその一端が語られているんですね。
この本を読んでみると、翻訳作品の見方が変わってくるんじゃないでしょうか。
少なくとも自分はそうなりました。そして、海外の作品をもっと読みたくなりました。

翻訳文化が沁みた。そんな感じの一冊でした。

【書評】「佐久間宣行のずるい仕事術」(佐久間宣行)を読んでの感想

読んでみて、いいなと思ったところ。

  • 人を責めずに仕組みを変える
  • インプットし続ける
  • メンタル第一、仕事は第二
  • 人間関係に関する箇所全般(組み合わせが大事そう)

読みやすくて、すっと自分の中にはいってくる文章。
佐久間さんを知らない人にいいんじゃないかなと。
個人的には、ラジオを聴いてみたくなった。

【書評】「免疫「超」入門 「がん」「老化」「脳」のカギも握る、すごいシステム」(吉村 昭彦)を読んでの感想

タイトル通り、免疫学への入門書です。
研究者を目指す人や、学部を選択中の学生向けなのかな、と思いました。
もちろん、そうでない人が読んでも学べるようになってますが。

入門とはいえ、難しいですね。
パズルのような、アルゴリズムのような、計算式の連なりのような。
(正しい表現になっていないような気がします。)
本気で学びたい人向けの本といったところでしょうか。
初心者向けにレベルをおさえてくれているんですけどね。
専門的に学ぶとなると、もっと詳しく理解しないといけないと思うと。

研究の最前線での経験談が書かれているのも特徴で。
こちらは、研究者の読み物として興味深い。
学生にはこちらも参考になるんじゃないかなと。

普段の生活にすぐに活かせるような具体的なテクニックとかは書いてないです。
でも、理解しておくと、生活の指針にはなるんじゃないでしょうか。
徹底的に調べられた基礎的な知見だと思うので。
拙い知識でも体のメカニズムを知って生活するとどうなるのだろうという、興味が出てきました。

他の免疫学の本も読んで、知見を広げていきたいなと思った次第。

【書評】「アメリカ素描」(司馬遼太郎)を読んでの感想

はじめに

司馬遼太郎さんがアメリカを訪ねた際に書かれた、アメリカについての文章です。
旅行記でもあるし、アメリカの社会の論評でもある。
約40年前の内容なので、今とは違う面も多いとは思いますが、アメリカ社会の実態が伝わってくるものとなっています。
司馬さん独自の視点からの、考察はやはり読み応えがあります。
アメリカについてのイメージが変わるも部分もあるし、イメージ通りなのだなあと思う部分もある、そんな感じに受け取りました。

目次

キーワード3選

人との出会いが中心になっている印象を受けました。
ドイツ系であったり、アジア系であったりと一口にアメリカ人と言ってもいろいろな人がいるんですね。
アメリカ社会を構成している人々の考え方は様々で、そこのところを司馬さんは丁寧に捉えているように思いました。
1つの国の中にもいろいろな人がいる(日本だってそうなのですが)、アメリカはそこが顕著なのだな、と。

日本

アメリカと相対的に日本が描かれている箇所も少なくありませんでした。
日本を、名人の国としていた部分には、納得感がありました。
名人であることが前提で、名人でない人は大変な思いをすることを受け入れざるを得ない。
そのような捉えかたであったと思います。
当時の日本が、アメリカに近づく中で、名人の国としての性質は薄れていると司馬さんは感じていたようです。
そして、そのことに疑問も持っていたような。
当時司馬さんに以外にも疑問を感じている人もいた、というところに、名人の国の特性が残っているようにも感じました。

歴史

歴史的に日本人が、どのようにアメリカと関わってきたのか、どう見てきたのかというところも読みどころかと思いました。司馬さんの他の作品の中でも、初めて異国に触れる日本人の姿が描かれていたように思います。
特に、アメリカはどのような国だったのか。
ごく限られた所感ではあったと思うのですが、当時の日本人にとってものすごく豊かに映ったのではないかと思いました。
その背景にあったものを、司馬さんは旅を通して感じ、考察し、書き残したのだと思います。
これは、40年経った今旅してみると、また、違った感想を得られるのかもしれませんね。

印象に残った文章

ジェイクの母は幸い、どの国に行っても通用する学問と技術があったから、アメリカの有名な製薬会社で重要なしごとをしている。

アメリカ素描」(新潮文庫)より引用


"どの国に行っても通用する学問と技術"という考え方は、司馬さんの小説に時々出てくるような気がするんですね。
エンジニア的な人物を描写するときにその背景にあるものとしてみているような。
このような普遍的なスキル(学問と技術)が何かというのは、時代が変わっても生きる上で大事になってくると思われる考え方だと思います。

おわりに

テーマがどんどん変わっていくので、追いつくのが少し大変でもありました。
司馬遼太郎さんの文明観が分かる作品だと思います。

司馬遼太郎さんの旅行記が好きな人におすすめな一冊です。