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書評のブログ。

【書評】「アメリカ素描」(司馬遼太郎)を読んでの感想

はじめに

司馬遼太郎さんがアメリカを訪ねた際に書かれた、アメリカについての文章です。
旅行記でもあるし、アメリカの社会の論評でもある。
約40年前の内容なので、今とは違う面も多いとは思いますが、アメリカ社会の実態が伝わってくるものとなっています。
司馬さん独自の視点からの、考察はやはり読み応えがあります。
アメリカについてのイメージが変わるも部分もあるし、イメージ通りなのだなあと思う部分もある、そんな感じに受け取りました。

目次

キーワード3選

人との出会いが中心になっている印象を受けました。
ドイツ系であったり、アジア系であったりと一口にアメリカ人と言ってもいろいろな人がいるんですね。
アメリカ社会を構成している人々の考え方は様々で、そこのところを司馬さんは丁寧に捉えているように思いました。
1つの国の中にもいろいろな人がいる(日本だってそうなのですが)、アメリカはそこが顕著なのだな、と。

日本

アメリカと相対的に日本が描かれている箇所も少なくありませんでした。
日本を、名人の国としていた部分には、納得感がありました。
名人であることが前提で、名人でない人は大変な思いをすることを受け入れざるを得ない。
そのような捉えかたであったと思います。
当時の日本が、アメリカに近づく中で、名人の国としての性質は薄れていると司馬さんは感じていたようです。
そして、そのことに疑問も持っていたような。
当時司馬さんに以外にも疑問を感じている人もいた、というところに、名人の国の特性が残っているようにも感じました。

歴史

歴史的に日本人が、どのようにアメリカと関わってきたのか、どう見てきたのかというところも読みどころかと思いました。司馬さんの他の作品の中でも、初めて異国に触れる日本人の姿が描かれていたように思います。
特に、アメリカはどのような国だったのか。
ごく限られた所感ではあったと思うのですが、当時の日本人にとってものすごく豊かに映ったのではないかと思いました。
その背景にあったものを、司馬さんは旅を通して感じ、考察し、書き残したのだと思います。
これは、40年経った今旅してみると、また、違った感想を得られるのかもしれませんね。

印象に残った文章

ジェイクの母は幸い、どの国に行っても通用する学問と技術があったから、アメリカの有名な製薬会社で重要なしごとをしている。

アメリカ素描」(新潮文庫)より引用


"どの国に行っても通用する学問と技術"という考え方は、司馬さんの小説に時々出てくるような気がするんですね。
エンジニア的な人物を描写するときにその背景にあるものとしてみているような。
このような普遍的なスキル(学問と技術)が何かというのは、時代が変わっても生きる上で大事になってくると思われる考え方だと思います。

おわりに

テーマがどんどん変わっていくので、追いつくのが少し大変でもありました。
司馬遼太郎さんの文明観が分かる作品だと思います。

司馬遼太郎さんの旅行記が好きな人におすすめな一冊です。