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【書評】「君は決して一人じゃない(後藤正治ノンフィクション第9巻)」(後藤正治)を読んでの感想

はじめに

この作品は、1960年代のイングランドフットボールビートルズを中心にして、イングランドフットボールの魅力について書かれたものです。

1960年代という年代は、イングランド社会で、フットボールと音楽が同時に盛り上がっていたことが分かります。

1966年には、イングランドでワールドカップが開催され、代表チームが優勝します。
また、1968年には、マンチェスター・ユナイテッドがチャンピオンズ・カップ(現在のチャンピオンズリーグ)で優勝します。
これはイングランドのクラブチームで初めての優勝でした。
ビートルズは、1962年にデビューし、1970年まで活動します。
1960年代は、数々の曲が発表されていた時期になります。
当時から現在まで続く、音楽への多大な影響はご存知の事と思います。

この1篇には、フットボールビートルズの挿話がぎっしりとつまっています。

目次

全体の感想

読み始めは、昔のフットボールの世界が、今よりも魅力的だったように思えました。
当時取材していた人物たちへのインタビューが載っているのですが、選手が身近な存在であったことが伝わってきます。

現代のイングランドの選手としてのベッカムと1960年代を代表する選手としてボビー・チャールトンが対照的に描かれます。
1960年代を彩るビートルズの音楽がさらに、懐かしさをより際立たせます。

現代のリバプールの試合も描かれるのですが、その情景からフットボールの魅力は変わらず、今のフットボールもいいものだなと思えました。
昔の情景の魅力も間違いなくあるのですが、今のフットボールの良さも味わえるといいと思います。
最後には、選手のエピソード、試合の描写、クラブチームや代表チームの歴史を通して、フットボールの変わらない良さが伝わってきます。
歴史が裏付けとなったイングランドフットボールの魅力が分かる作品です。

キーワード3選

ビートルズ

ビートルズはやはり、1960年に登場したイギリスの象徴といえる存在ですね。
この1篇での1つのテーマは、フットボールとの共通点は何なのか?だと思います。
正直、私には見つからないんですが、本作品では、その点についての一つの回答が提示されています。

ビートルズのメンバーが生まれ育った街、リバプールフットボールの街でもあるんですね。
リバプールエバートンという二つのクラブがあります。
ビートルズのルーツの部分にはフットボールがあったといってもいいのではないかなと個人的には思っています。
共通点はパッと頭には浮かばないんですが、こうして考えてみると、同じ場所にあってしっくりくるとも思うんです。

マンチェスター・ユナイテッド

マンチェスター・ユナイテッドに所属していた名選手についてのエピソードも語られます。
ボビー・チャールトンジョージ・ベスト、ジェフ・ハースト、そして、デビッド・ベッカム
1968年の優勝に関わった選手達と現代のスター選手であるデビッド・ベッカムは対照的でもありますが、共通するものもあるように思います。
ヨーロッパの頂点に立った選手達のエピソードは非常に印象に残ります。

ビートルズのメンバーと、フットボールのスター選手はどちらも人々の注目を浴びる存在でした。
ジョージ・ベストは5人目のビートルズとも呼ばれていたそうです。
両者ともに華やかな世界にいたことは間違いないのですが、それだけではないはずです。
本編からは、その背景にあるものも感じられます。

ジェリー・クラナム

ジェリー・クラナムは、イングランド代表の優勝の瞬間を写真に撮ったスポーツカメラマンです。
古き良き時代を代表するようなエピソードを持っています。
まだ、彼がカメラマンとして活躍されていた当時は、選手たちと取材する人間の距離が近かったことが分かります。
あと、フットボールと写真というのは何だか、不思議と相性がいいような気がします。
何故だかは分からないんですが。

印象に残った文章

ハーストのとどめのゴールをクラナムは見ていない。

> 君は決して一人じゃない(後藤正治ノンフィクション集 第9巻)(ブレーンセンター )より引用

クラナムが写真に撮った、イングランドのワールドカップ優勝の瞬間の描写です。
この写真を見たことがありますが、この1文とセットですごく印象に残っています。
この1枚は、ぜひ見て欲しいです。
スポーツ記事の醍醐味を感じれる1文ではないかと思っています。

おわりに

格好いいノンフィクション作品というイメージのある作品です。
印象に残る表現が随所にあって、そこが頭に残っているんですね。
全体の流れよりも、文章が先に思い出されるんです。
短いセンテンスが印象に残っていて、読み返した時に、あの表現はこの中にあったのかと思うことが多いんです。
そんな作品は滅多にないので、印象深いですね。
スポーツ・ノンフィクションが好きな方におすすめの1篇です。

 

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