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書評のブログ。

【書評】「蹴る群れ」(木村元彦)を読んでの感想

世界中のサッカーに携わる人物について書かれたノンフィクションです。
今でも名前を聞くことのある選手も出てきますし、歴史的な人物への取材のお話もあります。

サッカーを通して社会のリアルな状況を伝えています。
取材の踏み込み方が深く、他のスポーツ・ノンフィクションとは異なる読み応えがありました。
もちろん、取材している選手達も興味をひかれる人物ばかりです。
サッカーの読み物としても決して、不足はないんです。
選手の人生、社会の様相が同じ熱量で印象に残る。そんな風に感じました。

また、写真が所々に差し挟まれているんですね。
写真、すごくリアルな写真がサッカーとつながる感じを受けました。
サッカーとは関係ない写真も多いんですね。
ただ、写真だけだと、ここま刺さらなかったかもしれないなと思います。

総じて、上澄みの情報だけを知っているような地域の歴史を分かりやすく伝えてくれる作品だと思います。
もちろん全てを分かったなどとは言えないのだけれど。
だとしても、情報への接し方が変わったと感じれるんですね。

まず、読んでもらいたいのは、「イラク代表随行記」です。
この本のテーマが凝縮されていると思います。想像していなかった情報がどんどん出てきて、一気に引きこまれます。
サッカー代表チームへの取材とは一線を画する内容となっています。

世界の社会の状況をサッカーを通して描き出している作品として、一番印象に残ったのは、デヤン・サビチェビッチを取材した作品です。
デヤン・サビチェビッチモンテネグロの独立がテーマです。
モンテネグロの独立のことは知っていたつもりだったのですが、実際のところは何も知らないのと同じだったんだな、と。
独立を巡る選挙の様相は、複雑で想像を超えたものでした。
(この部分だけでも、ぜひ読んでいただきたいですね。)
そして、その状況の真っ只中にいたサビチェビッチの姿と言葉は、何とも言えない、重い気持ちにさせられます。

サッカーが好きな人にぜひすすめたい本だな、と。
現代に通じる世界史と結び付けてくれる一冊と言っていいと思います。

【書評】「歴史からの救出者(像が空をⅠ 夕陽が眼にしみる)」(沢木耕太郎)を読んでの感想

チェーザレ・ボルジアの作品を中心にして塩野七生さんについて書かれた作品です。
あまり読んでいないくせに、塩野さんの本は好きでして。
ヨーロッパの歴史の深いところを知りたいと思ったら、塩野さんの作品をまずは手にとるといいんじゃないかと思っています。
(個人的には、ですが。)
海の都の物語を読んで、ヴェネツィアの歴史を知ったのですが、その奥深さには心底驚かされました。
手を出していないのですが、タイトルをみると、十字軍物語、皇帝フリードリッヒ二世の生涯、ローマ亡き後の地中海世界、とどれも面白そうで。

この文章で取り上げられているチェーザレ・ボルジアという人物については詳しくなかったのですが、沢木さんの文章から非常に魅力的な作品になっているのだろうな、と思っています。
史実と人物への洞察は何とも言えない読み味がつまっているんじゃないか、と。

塩野さんの本を手にとって、どっぷりとヨーロッパの歴史に浸りたいと思いましたね。

【書評】「雨のハノイ(沢木耕太郎ノンフィクション 4 オン・ザ・ボーダー)」(沢木耕太郎)を読んでの感想

はじめに

沢木耕太郎さんのベトナムを訪ねた際の旅行記
年齢を重ねてからの旅行になっています。
いろいろな経験を経ての旅なので落ち着いていますね。
沢木さんが書いてきた文章が散りばめられていて、文章の世界が表れてくると一気にその雰囲気にくるまれます。
楽な気持ちで読み始められて、気が付くと文章の流れに夢中になるような作品です。

 

目次

 

キーワード3選

年齢

年齢を感じさせる描写があります。
若い方が旅はいい。そんなことも言われると思うんですが、年齢を重ねての旅もいいもんなんだなと。
出会うものへの新鮮な感覚は、まあ少しは減っていくんだと思います。
その分というか、そこからくる落ち着きも良さがきっとあるんじゃないかなと思うんですね。

食べ物

おいしい食べ物があるだけで、旅はよいものになりますね。
沢木さんの旅行記にも食べ物が多く出てきます。
知らない土地で食べる時には、期待と不安が入り混じります。
口に合った食べ物があるというだけで、落ち着いて旅ができる感覚は何だか分かるなあ、と。

手紙

沢木さんの旅と言えば、手紙が欠かせないと個人的には思っています。
本当にうまく手紙が出てくるんですね。
旅先から手紙を出すというのをここまで自然に格好よくできる人がいるんだなあ、といつも感心してしまいます。
深夜特急を思い出しました。

おわりに

ベトナムなんだけど、沢木さんの本によく書かれている人物が多く出てきます。
旅先でもライフワーク的な要素と離れられないというか、いつも思い巡らせているからそうなってしまうというのか。
沢木さんの旅行記がお好きな人にぜひ、読んでいただきたい作品です。

【書評】「せっかくこうして作家になれたんだもの レイモンドカーヴァーについて語る」(村上春樹)を読んでの感想

レイモンド・カーヴァーさんというアメリカの小説家について村上春樹さんが語るインタビューです。
村上さんはレイモンド・カーヴァーの全ての作品を翻訳していたとのこと。
カーヴァーさん本人に会ったこともあり、家族との交流もあったそうです。

インタビューの時点で、カーヴァーさんはすでに亡くなられていて、残された未発表作品の翻訳についても語られているんですね。
発表していないということは達成されていない何かがあるわけで、同じ小説家同士だと思うところがあるようです。
読者にとってはどうしても読みたくなるものだと思うのですが、小説家からすると心苦しさを感じてしまう部分なんだろうな、と。

小説家同士が翻訳を通して、深くつながるというのはすごくいいものなんじゃないでしょうか。
作品について書く、というのとは違った捉え方ができると思うんです。純粋に読むのとはやはり違うわけだから。
翻訳をしたことのない自分は想像するしかないんですが。

一人の小説家の全作品を読むのって楽しい経験だと思うんです。
年代を把握して、作品の変化から小説家の人生の移ろいを味わえるわけですからね。
いいことばかりではないのかもしれないけど、そこのところもひっくるめて、です。

村上さんによると、カーヴァーさんは書くことにとても真剣であったそうです。
人生を通して真摯に書かれた作品があり、それをしっかり読みとった人の言葉がある。
どんな作品なんだろうか、と思うのが自然ですね。

村上さんが翻訳したレイモンド・カーヴァーさんの本を読もうと思うしだいです。

【書評】「うずまき猫のみつけかた」(村上春樹)を読んでの感想

はじめに

自分の生活との距離感が心地よいエッセイだと思うんですね。
印象に残ったエピソードとして、村上さんが年末に車が盗まれたエピソードがあるんですが、かなり辛いできごとだと思うんですよ。
外国だったとしたら、なおさらのことだな、と。
他にも日本にいたら、出会えないアメリカならではのできことがすっと綴られています。
(楽しいエピソードもあります。)

アメリカでの生活が村上さんの文章で読めるおすすめのエッセイの本となっています。

目次

 

キーワード3選

ランニング

個人的にはなんですが、村上さんと言えば、ランニングだと思うんですね。
走ることについて書かれたエッセイも多くありますし。
ボストンマラソンんに参加された時のエピソードは興味深かったです。

アメリカでの生活が中心の本書ではありますが、旅に出た際のエピソードも書かれています。
日常生活とは違った自由な雰囲気を感じることができます。

村上さんと猫のエピソードは別の本でも語られてますね。
猫が好きなんだな、というのがひしひしと伝わってきます。
いろいろなところで出会った猫とのエピソードもおもしろいですが、長い時間を共にした飼い猫との思い出も味わい深いです。

おわりに

リラックスして読める本だと思います。
村上さんの文章がお好きな人には、おすすめの一冊です。

【書評】「雑文集」(村上春樹)を読んでの感想

はじめに

長い期間に渡って様々な媒体で書かれた短い文章が集められた本です。
村上春樹さんの小説やエッセイをある程度の冊数読んだ後に手にとる本になるとは思います。
ひらたく言えば、初心者向けではないんですが、すごく良質な本だと思います。
村上さんの作品がお好きな人には、是非読んで頂きたいです。

以前に読んだ本について書かれた内容が別の角度から書かれているというのは興味深いですね。
とりわけ、アンダーグラウンドについて書かれたものは、ずっしりときました。
感想が実際のところ薄れていたのですが、またくっきりと思い出されました。
視点の違いが輪郭をはっきりとさせているような感じがします。(年月によるものもあるのでしょうが。)

レイモンド・カーヴァーの作品を翻訳した本を出版されていたことは知っていたが、全作品の翻訳を手掛けていたとは知りませんでした。
小説家になって割とすぐにカーヴァーに会っていたことには驚きました。
読んだことはないのだけど、是非読んでみたいですね。

グレート・ギャツビースコット・フィッツジェラルドへの思い入れが伝わってくるのも印象的でした。
アメリカ文学というものが大事なものであったことが伝わってくるというか。

文章の性質上当然ながら、短くまとめられていてさっと読めるものが多く入っている。
エッセイとはまた違った読後感があります。
所々、少し長めでしっかり読ませるものがあるのもアクセントになっているんですね。
ものすごい計算されているんじゃないかと思う。
上手な仕事だな、と。

多くの文章を読み、自分の中で再構築して、文章をたくさん綴ってきたこと。
文章の質の高さというのは、その反復された量からしか生まれないのかな、と。
素人ながら、そう思う他ないですね。

目次

キーワード3選

結婚式へのメッセージ

村上さんが贈った結婚式へのメッセージが載っているんです。
貴重な文章だと思います。
短いんですが、暖かみのある言葉になっています。

世界の終わりとハードボイルドワンダーランド

この作品が書かれた背景について書かれた文章があります。
構造が印象的な本作の製作の裏側(部分的ではあると思いますが)を知れるのは読者としては楽しいのではないかと思います。

安西水丸さんと和田誠さん

村上さんの文章ではないのですが、お二人の対談も楽しく読めました。
多方面の文章を集めた本ではあるのだけど、お二人の存在が1つの筋道となっている気がするんですね。

おわりに

小説の良さへの信頼が根底にあるなと思いました。
自然と小説が読みたくなるんですね。信頼感がこちらにも移ってくるのかもしれないし、あるいは、その信頼を自分の中に持ちたいのかもしれない。
読みたくなった作品がいくつもあります。少しずつ読んでいきたいですね。
こういったいわゆる上級者向けの本を読むことは少ないのだけれど、こういった本もいいものだな、と。

【書評】「オリンピア1996 冠<廃墟の光>」(沢木耕太郎)読んでの感想


はじめに

1996年に開催されたアトランタオリンピックを取材したノンフィクション作品です。
旅行記であり、スポーツ観戦記です。
オリンピックの歴史を掘り下げ、歴史の中でのアトランタオリンピックの位置づけが見えてきます。
観戦に関しては、一日ごとの日記の形をとっており、現地での臨場感が伝わってきて、盛り上がりを体感できます。

また、オリンピックということで様々なスポーツが出てくるんですが、スポーツ全般の見方、楽しみ方を知れる作品でもあります。
20年以上前のオリンピックが主題であるものの、今の時代でも、スポーツの楽しみ方が通じる気がしてきます。

目次

キーワード3選

食べ物

食事のシーンが随所に出てくるんですね。
アトランタで食べるものに苦労している姿が描かれています。
旅先でおいしいものに出会った時の嬉しさが万人に共通であることが伝わってきます。

陸上競技

陸上競技の楽しみ方がわかります。
大舞台での陸上競技の盛り上がり方をしっかりと把握している沢木さんと視点を同じくして観戦しているですから、当然とも言えます。
最高の瞬間はなかなか観れないというのも印象的でした。

あとがき

私が読んだのは新潮文庫版でして、こちらでは2021年に書かれたあとがきが読めます。
20年以上経過した視点で書かれた文章も味わい深いです。
オリンピックが続いていることを実感できました。

おわりに

本編も読みごたえがあって、素晴らしいのですが、あとがきもぜひ読んでほしいです。
全てを通してオリンピックの見方が分かる一冊ではないかと思います。

スポーツがお好きな人にぜひ読んでほしいです。