はじめに
俳優の山崎努さんによる本についてのエッセイ集です。
1編の中で、2-3冊の本について書かれています。
本書を知ったきっかけは、「ほぼ日刊イトイ新聞」の山崎さんへのインタビュー記事でした。
山崎さんは有名な作品に出演されている方なので、どんな本なのだろうと気になって読みました。
目次
全体の感想
何よりも山崎さんの文章がいいんですね。
読みやすく、メリハリがよいさじ加減だと思います。
1篇ずつの長さも丁度よくて、ずっと読み続けられる、そんな本でした。
形式としては、日記のように書かれています。
一つのテーマごとに日付(厳密に日付がふってあるわけではないのですが)を変えて書かれているので、場面の転換が分かりやすいんですね。
山崎さんの読書メモを続けて読んでいるような印象にもなります。
俳優の方の著書の特徴と思うのは、ご本人の声をイメージできるということだと思うんです。
山崎さん本人が話しているような印象を受けます。
普通、作家さんの声をイメージすることはないので、俳優の方が書かれた本の独特の味わいになっていると思います。
また、重要なのは、読んだ本の中に出てくる人物の言葉だと思います。
深い洞察によって選ばれたであろう言葉に、ハッとさせられます。
本への評価が厳しい箇所もあって、読書が本当に好きな人なんだろうなというのも伝わってくるように思いました。
印象に残ったエッセイ5選
- 戦時下の娘、兵士、父親の感情
- 貧乏職人の恋
- 天、夕暮れ、飛行機
- 食べる
- おもしろい身の上話
1.戦時下の娘、兵士、父親の感情
戦争の関する本についての1篇です。
重みのある文章になっていて、戦場の場面の引用が迫力があります。
2.貧乏職人の恋
山崎さんの貧しさへの感想が興味深いですね。
こんな貧乏はまだ甘いというような書かれ方をしています。
バーナード・マラマッドの「喋る馬」は読んでみたい本になりました。
3.天、夕暮れ、飛行機
空につながる本の感想が書かれた1篇です。
作家と飛行機というテーマで書かれた箇所が印象に残っています。
4.食べる
中村安希さんの「食べる」という本の感想が秀逸です。
すごくおいしそうな朝食、なじみのある日本食や、アフリカの穏やかじゃない食べ物など。
幅のある食べ物の話を一気に味わえるのも、本ならではな気がしました。
あと、山崎さんの描写する食べ物が不思議といいんですね。
5.おもしろい身の上話
元プロ野球選手の関根順三さんの著書について書かれた1篇です。
関根さんの人柄を好んでいる山崎さんの文章がいいんです。
お二人に通じるものがあるのだろうなと思います。
町人の野球という表現がいいな、と。
印象に残った文章
'要するに、好きはもともとあるのではない、好きになるのは大変だということ。'
> 「柔らかな犀の角」(春秋文庫)より引用
工藤公康さんの著書を読んで、書かれた言葉です。
人生をゆったりと生きようという考えが本書の背景にあるように思います。
しかし、この文章は少しその考え方とは違う、仕事への厳しさを伝えるものになっています。
山崎さんの軸になっている考え方がうかがえる箇所になっていると思い、頭に残りました。
おわりに
本書を読むと、読んでみたい本がどんどん出てきます。
野球に関するものが多い印象です。
イチローさん、石井琢朗さん、工藤公康さん達にふれられたエッセイもあります。
広いテーマの本がとりあげられているので、読書の幅を広げたい方にはぜひ読んでいただきたいです。