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書評のブログ。

【書評】「チェーン・スモーキング」(沢木耕太郎)を読んでの感想

はじめに

本書は、沢木耕太郎さんのエッセイ集です。
沢木さんは深夜特急で有名な作家さんですね。
エッセイ集も多く出版されてまして、その中の1冊となっています。

私が沢木さんの文章に触れたのはエッセイからでした。
深夜特急をはじめとする旅行記、スポーツ・ノンフィクション、事件をとりあげたルポルタージュといった作品を読んだ後に読むと印象が変わったのを覚えています。
個人的には、沢木さんの作品の有名なものを読んだ後に読むとさらに良いような気がしますね。

目次

全体の感想

いろんな話題が詰め込まれています。
1篇1篇が様々な話題や、小さな知識に触れられて、読んでいる時間を飽きさせません。
リズムよく話題が移って楽しめる様な内容の読み物ですね。
お酒などのみながら、一緒に話しているような感覚になります。
話題の広さと、適度な深さ、読みやすい長さと、絶妙なエッセイが集められています。

好きなエッセイ3選

老いすぎて

スポーツに関する1篇です。
老いは、スポーツ選手にとって避けようのないものです。
アメリカのボクサーが登場し、それぞれの言葉から、老いたスポーツ選手の悲哀が感じられます。
沢木さんはボクシングについて多くの作品を残されています。
エッセイでも取材で得たボクシングの本質であり、魅力、エッセンスのようなものが込められているように思えました。

アフリカ大使館を探せ

こちらは、向田邦子さんについての話題が出てきます。
テーマは、言葉の勘違いという、誰にでもある体験です。
向田さんと沢木さんの関りについて、知ることができる内容で印象に残りました。
余談ですが、私は沢木さんの作品を通じて、向田さんの作品に関心を持ち、エッセイ集等を読むようになりました。

消えた言葉

本や映画に出てきたはずの言葉を探すというのがテーマの1篇です。
あの言葉が印象に残った、というのを人から聞くのは楽しいものです。
そして、その言葉が実際に出てくる場面をみたり、読んだりするのはさらに楽しいと思います。
そんな体験について、書かれているんです。
沢木さんは読書家ですし、様々な取材をされている方です。
どんな言葉について、書かれているのかはじっくり読んでいただきたいなと思います。

印象に残った文章

'自分の思いの中に入っていると、しだいにアスファルトの鼓動が聞こえてくる。'

> 「チェーン・スモーキング」(新潮文庫)より引用

沢木さんが少年時代に街を散歩していた時を思い出して書かれた中の1文です。
エッセイは全て沢木さんの思いから発せられたものです。
その原点には静かに考え、ぐるぐると歩き回る様な時間があったのだなと思いました。
沢木さんのエッセイは、街から生まれるエッセイなんですね。

おわりに

なかなか、こんな風に人の興味を惹きつけ続けられる文章を書くことってできないと思います。
何度、読み返しても良いんですね。

あまり肩肘をはらずに手に取ってもらえる1冊だと思います。