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書評のブログ。

【書評】「味醂干し(眠る盃)」(向田邦子)を読んでの感想

はじめに

味醂干しを題材にしたエッセイです。
食べ物を取り扱った向田さんの文章はどれも楽しいのですが、食べ物が魅力的に描かれているものになっていると思います。
個人的には、書かれている食べ物を一番食べてみたくなった一遍です。

目次

全体の感想

向田さんのエッセイに共通する以下のようなピースが集まっています。

  • 落語のような雰囲気
  • 料理のレシピめいた文章
  • 子供時代の思い出
  • 東京

味醂干しという食べ物がまた独特で合っているんですね。

キーワード3選

味醂干し

 タイトルが最も印象的だったと思います。
 これほど味醂干しをおいしそうに書いたものが思いつかないです。
 このエッセイを読んだら、絶対に味醂干しを食べたくなると思います。
 子供時代にアツアツの味醂干しを口に入れたときの描写は絶対に読んでほしいです。

魚屋さんとの会話

 失われたおいしさを追いかける向田さんとの会話です。
 粋な会話と言えばいいのでしょうか。歯切れのいい会話が印象に残ります。

懐かしさ

 味醂干しを通して、描かれているのは子供時代への懐かしさだと思うんですね。
 おいしかった味醂干しを食べていた頃の記憶を追いかけるように、おいしい味醂干しを探しています。
 決して湿っぽくはないのですが、改めて読み返すと、懐かしんでいることがすごく伝わってきます。

印象に残った文章

"…うめえわけねえや。"

「眠る盃」(文春文庫)より引用

魚屋のおやじさんの言葉です。
歯切れのよい口調が聞こえてくるような気がします。
昔と変わってしまい、おいしくない味醂干しへの批評となっています。
一緒に怒っている向田さんの心情が伝わってきて、何だか可笑しくて、印象に残っています。

おわりに

味醂干しを通して、思い出される子供時代が背景にあります。
昔ながらの味醂干しを求める向田さんは、同時に思い出に少し浸ろうとしていたのかもしれません。
一方で、食べ物の趣向の原点を味醂干しとして、お洒落な料理を楽しむ自分へ冷めたようなことも書いています。
湿っぽくなく、昔を丹念に懐かしむ。
向田さんらしさに満ちた一遍だと思います。