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書評のブログ。

【書評】「私だけの教科書(像が空をⅢ 勉強はそれからだ)」(沢木耕太郎)を読んでの感想


はじめに

沢木耕太郎による、ノンフィクションについての技術論とも言えるエッセイです。
タイトル通りに教科書として、沢木さんが読んだ本が紹介されています。

沢木さんのエッセイには、技術論が書かれているものがいくつかあるのですが、その中の一編になります。

目次

全体の感想

ストレートにノンフィクションを書く際の技術論が書かれてます。
沢木さんの技術論を読めるということで、非常に貴重なのではないかと思います。

以下では、自分なりに捉えなおしたこの一遍で書かれている技術の中心部分を書いてみたいと思います。

キーワード3選

自分の興味、思考の方向性、感じ方をしっかりと知ること

まずは、自分がどのような姿勢で作品のテーマを取材するのかということが大事だとされていました。
取材するのは自分自身であり、そこがブレていてはよい作品にならないのだと思います。

結論を導き出すことに重点を置かないこと

沢木さんは、結論を出すことは重要ではないとされています。
対象について学び、取材し、自分の思考への変化や感じたことが重要なのだと。
明確に結論が出すことを求めず、思考が揺さぶられていく様子を描くことで、読み手に考えさせ、感じたことを共有できるのではないかと思いました。
実際の出来事への感情の共有がノンフィクションを読む時の醍醐味なのではないかとも感じました。

生き生きとした表現

恣意的に生き生きとさせることではありません。
自分なりに見て、聞いて、感じたことをしっかりと描くことが、結果として生き生きとした表現につながるのだと思います。
読み手に伝わる表現になっているかどうかということが、ノンフィクション作品として魅力あるものになっているかどうかの指標になるのではないかと思いました。

印象に残った文章

'私はもういちど「散る日本」と「世相講談」に引き返し、読み直した。何度読み直したか。'

> 「像が空をⅢ 勉強はそれからだ」(文春文庫)より引用

すぐに技術が身につくということはないということが分かる一文です。
"教科書"を読んですぐにできるようにはならないという当たり前のことが伝わってきます。
四苦八苦しながら、技術を自分のものにしていくこともこの1篇から学ぶことができると思います。

おわりに

文章を書く、ノンフィクションを書く、ルポルタージュを書く際の参考になることは間違いないと思います。
文章を書く力をつけたいと考えている方にはぜひ一読していただきたい作品です。