はじめに
村上春樹さんがアメリカに滞在されていた時期にかかれたエッセイを集めた本です。
1990年頃のアメリカの話になります。
村上春樹さんのエッセイの中でも、海外での暮らしのエッセイはより楽しめるものになっていると思います。
気軽に読めて、当時の文化的な背景も垣間見れるんですね。
だいぶ昔の話という感じもしますが、アメリカという国を村上さんの視点から感じられるのも興味深いです。
ボリュームも多くはなく、少し空いた時間に読むエッセイとしては最適だと思います。
目次
キーワード4選
ジャズ
ジャズについて書かれた一節があります。
村上さんはジャズを含めた音楽についての本を書いていて、音楽への造詣が深い方だと思います。
音楽についての意識の変化についても書かれていて非常に面白かったです。
レコードについても書かれています。
当時はCDへの切り替わりの時期だったんだなあと。
蛇足ですが、この本に限らず、村上さんのジャズについての文章を読むとジャズを聴きたくなるんじゃないかなと思います。
ランニング
ランニングも村上さんのエッセイにはよく登場します。(こちらも本になっていたりしますね。)
当時のアメリカのランニング事情なんかも分かります。
外国でランニングをする機会は滅多にないと思うので、何だか勉強になるなという感じでした。
大学
村上さんは、プリンストン大学で学生に日本文学を教えながら、生活をしているんですね。大学の中のお話も書かれています。
ある意味では、閉じられた社会の中の話ということなんでしょうか、独特なんだなと思いました。
他のエッセイにはない視点になっていて、この本の味わいを決定づけている部分なんじゃないかと個人的には思います。
文学
村上春樹さんが捉える文学観のようなものも随所で読むことができます。
大学で教えたり、アメリカ人作家との交流のエピソードの中に出てくるんですね。
村上さんの小説を読んだ方は、きっとこの部分に読み応えを感じるのではないかなと思います。
印象に残った文章
でも四十を越して、この先どれくらいの有効年月が自分のために残されているかというところがそろそろ気になってくると、スペイン語やトルコ語の動詞活用をやみくもに覚えたりするよりは、自分にとってもっと切実に必要な作業があるのではないかという気持ちが先にたってくる。
「やがて哀しき外国語」(講談社文庫)より引用
外国語を覚えることに対して感じたことについて村上さんが書かれた箇所になります。
年齢によって、残された時間によって、何を優先したいのかということが表れてきます。
外国で長く暮らし、外国語の習得に時間を費やしてきた村上さんの言葉だからこそ、重みがあります。
おわりに
異国の中での暮らしを肩の力が抜けた感じで読ませてくれる本です。
移動がメインで落ち着かない旅ではなく、地に足の着いた生活のエッセイという感じがします。
ヨーロッパでの生活を書かれた「遠い太鼓」というエッセイもありますが、こちらの方が冷静に書かれているように思えます。
分析的な感じもしますね。
30年以上前のことですから、身近という言葉は似合わない。
でも、すごく遠いお話という感じはしませんでした。
自分の年齢もあるとは思います。
異国の生活のエッセイも多くあるとは思いますが、楽な気持ちで読める、おすすめしたい本です。