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書評のブログ。

【書評】「シドニー コアラ純情篇」(村上春樹)を読んでの感想

はじめに

村上春樹さんが2000年に開催されたシドニー・オリンピックについて書いた作品です。
取材した日々のできごとを日誌のような形式で書いています。
それ故、競技に入り込み過ぎることなく、客観的に軽い感じで書かれた印象。
まあ、そうはいっても、選手、競技へ現場で取材した臨場感はしっかりあります。
オーストラリアの歴史、2000年当時の社会、都市(田舎)、オーストラリア人(オーストラリアに住む人々)のこと、といった側面も散りばめつつ、オリンピック期間のオーストラリアを描写しています。
いろいろなテーマをオープンにパッケージした旅行記とも言えるかもしれないですね。

コアラ純情篇はオリンピックの前半の日程までを取材した内容となります。

目次

キーワード3選

村上春樹夏季オリンピック

村上春樹さんがオリンピックの開催期間に現地に滞在し、観戦した内容を書いた場面が中心の作品。
夏季オリンピックというところも特徴になっています。
陸上競技、野球への思い入れが入っているな、という印象です。
あえて、夏季と書いたのは、冬季もちょっと読みたいなと思ったので。(個人的には、夏季のシドニーほど村上さんの文章にぴったりな開催地がないような気もしますが。)

野球

日本代表の野球の試合を観戦した内容は、他とは違って、観戦に慣れているんだろうなと思いました。
試合の流れ、心理の推測、監督の判断への感想が淀みなく書かれています。
松阪投手と江夏豊投手を比較した箇所が特に印象的でした。
村上さんのエッセイには時々、野球の話が出てくるんですが、まとまって試合観戦の記録を読んだことはなかったので、面白かったですね。
オリンピックの野球の試合ということで、日本のプロ野球と雰囲気が違うといったことも興味深かったな。

ラソントライアスロン(走ること)

村上さんはフルマラソンや、トライアスロンに定期的に参加されている方ですから、この種の競技にはかなり詳しそうな印象を持ちました。
選手同士の駆け引きや、心理の読み込み方も経験者ならでは、と感じさせるもの。
大げさではなく、マラソントライアスロンの見方が分かる内容となっていると思います。(今まで、この種の競技の見方がいまいち分からなかったので、そう思ったのかもしれない。)
文章の端々から、走ることへの思いだとか、選手全員へのリスペクトが感じられて、何だかよかったですね。

おわりに

オリンピックを取材したノンフィクションとしては異色かもしれないですね。
でも、読みやすくて、面白いことは間違いないです。
オリンピックの見方が少しだけ変わるかもしれない1冊です。