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書評のブログ。

【書評】「視ることの魔(路上の視野Ⅰ 紙のライオン)」(沢木耕太郎)を読んでの感想

沢木耕太郎さんがスポーツの視方、そして、取材論について書いている作品です。
特に若い方が読むと、スポーツの楽しみ方を知ることができて、プラスになるのではないでしょうか。

スポーツの楽しみ方を知りたければ、読むといい作品だと思います。
思い込むことの重要性、いかに愉しむかを突き詰めていく方法論が書かれています。

スポーツという枠を敢えてとりはらい、汎用的な「たのしみかた」というものとして捉えなおすと、
以下のようになるのではないかと思いました。

1.思い込む
2.ものごと自体に近づく
3.そこに何がかかっているかを理解する
4.自然に愉しむことは不可能だと理解する
5.最高の瞬間があることを知る
6.過程の意味合いをしっかりと読み解く

この作品で書かれていた愉しみ方の方法論は、スポーツであるから、イメージしやすかったことが分かります。
汎用的に応用するのは少し難しいかもしれません。

何かスポーツを見たくなる作品です。
大きな大会の前に読むと、よいかな、と。

【書評】「写す人(霊長類ヒト科動物図鑑)」(向田邦子)を読んでの感想

はじめに

向田さんが写真について書いたエッセイです。
写真を撮る側になった際に見えた風景を描写しています。
独特の視点で写真について語る楽しい一遍です。

目次

キーワード3選

動物

外国の動物園の写真を撮影する際の描写です。
人工的な空間で飼われている猛獣の姿が何だか物悲しいんですね。
人の心の細やかな機微をとらえるのと同様に動物園という場所の本質も描き出しているような文章です。

旅は写真を撮る機会が多いものです。
向田さんも旅の中で写真を撮っていたようです。
旅行者が入り込めない空気感を淡々と描いています。

写真

日本人に写真が馴染むまでの時間について書いています。
向田さんの年代の方だと、写真について多くを感じていたのだろうな、と思います。
当たり前でなかったものが、当たり前になっていくことを多く見てきたのだと思います。
その一つに写真があったのだな、と。

印象に残った文章

'...私が虎なら、その場で脱走してみせます、という代物であった。'

タイの動物園の虎の檻を評しての一文です。
軽妙で、何だかいいんです。
脱走してみせます、という言い回しが好きですね。

おわりに

さらっと読める、一遍です。
旅のエッセイですが、写真を撮るという部分で独特のアクセントが入っていますね。
疲れたときに軽く読める作品ではないでしょうか。

 

【書評】「なかんずく(霊長類ヒト科動物図鑑)」(向田邦子)を読んでの感想

はじめに

向田邦子さんが子供と言葉について書いたエッセイです。
言葉への感覚が独特で、かつ鋭いんですね。
分かるなあと、うなづきながら読める一遍です。

目次

キーワード3選

言葉を覚える、使う、繰り返す

子供が新しい言葉を覚える際に何度も使う姿が描かれます。
とても微笑ましい描写です。
向田さんの子供への視線というのが優しいいんです。

英語を学ぶ

向田さんの言葉の体験談として、英語を学んだ際のお話が出てきます。
何だか、うまく使えず、もどかしい。
そんな体験が自分にあったことのように思えます。
読み手の共感を引き出す向田さんらしいエピソードです。

言葉

この一遍を読んでいて感じるのは、向田さんが言葉を好きなんだなということです。
職業柄、ということもあるとは思いますが、やはり言葉に関心を持ったひとだったんだろうなと思うんです。

印象に残った文章

こうなっては証文の出し遅れである。

「霊長類ヒト科動物図鑑」(文春文庫)より引用

言葉を使いそびれたときの感覚を言い表した表現です。
的確で、すごく印象に残っています。
正直、前後の文脈を抜きにして覚えてしまっています。

おわりに

冒頭は日記のように始まり、最後に明確な結論があるということでもない。
日常で感じることをつらつらと書いたように感じるかもしれない一遍です。
でも、向田さんにしか書けない感覚が詰まった作品だと思います。

【書評】「寸劇(霊長類ヒト科動物図鑑)」(向田邦子)を読んでの感想


はじめに

向田邦子さんのエッセイの一遍です。
日本人らしい気の回し方を丹念に描いた作品になります。

目次

全体の感想

向田さんらしいなというのが第一の印象です。
客としての振る舞いと主人側の気持ちの機微は、日本の方だと分かるなと思うのではないでしょうか。
この辺を独特の視点で描いているんですね。

キーワード3選

誰しも、お客になったり、お客を迎える側になったりします。
どんな気持ちで振舞うのか。
探り合い、引いたり、押したり、かわしたり。
要素がたくさんあります。
人生の達人が秘訣を解き明かしていくような楽しさと奥深さがあるように思いました。

食べ物

食べ物を扱っているのがポイントだと思います。
向田さんが食べ物について書いたものは何だか楽しいんです。

楽しむコツ

気を遣うような局面も楽しめる心持を向田さんが持っていたように思います。
何事も前向きにとらえられる方だったのではないかと想像されます。
ポジティブな印象が全体に散りばめられているので、読んでいて安心できるのではないでしょうか。

印象に残った文章

...客も主人もみなそれぞれにかなりの名演技であった。

「霊長類ヒト科動物図鑑」(文春文庫)より引用

向田さんが言うなら、そうなんだろうな、と思わされます。
この辺の文章が楽しそうなんですよね。

おわりに

お客のことも主人のことも客観的に眺めている向田さんの姿が目に浮かぶようなエッセイです。
どちらの気持ちも手に取るように分かっており、解説を加えているような感じなんですね。
手の内を明かしながら、楽しんでいるような文章となってます。

短い一遍ですが、味わい深い作品です。

【書評】「私だけの教科書(像が空をⅢ 勉強はそれからだ)」(沢木耕太郎)を読んでの感想


はじめに

沢木耕太郎による、ノンフィクションについての技術論とも言えるエッセイです。
タイトル通りに教科書として、沢木さんが読んだ本が紹介されています。

沢木さんのエッセイには、技術論が書かれているものがいくつかあるのですが、その中の一編になります。

目次

全体の感想

ストレートにノンフィクションを書く際の技術論が書かれてます。
沢木さんの技術論を読めるということで、非常に貴重なのではないかと思います。

以下では、自分なりに捉えなおしたこの一遍で書かれている技術の中心部分を書いてみたいと思います。

キーワード3選

自分の興味、思考の方向性、感じ方をしっかりと知ること

まずは、自分がどのような姿勢で作品のテーマを取材するのかということが大事だとされていました。
取材するのは自分自身であり、そこがブレていてはよい作品にならないのだと思います。

結論を導き出すことに重点を置かないこと

沢木さんは、結論を出すことは重要ではないとされています。
対象について学び、取材し、自分の思考への変化や感じたことが重要なのだと。
明確に結論が出すことを求めず、思考が揺さぶられていく様子を描くことで、読み手に考えさせ、感じたことを共有できるのではないかと思いました。
実際の出来事への感情の共有がノンフィクションを読む時の醍醐味なのではないかとも感じました。

生き生きとした表現

恣意的に生き生きとさせることではありません。
自分なりに見て、聞いて、感じたことをしっかりと描くことが、結果として生き生きとした表現につながるのだと思います。
読み手に伝わる表現になっているかどうかということが、ノンフィクション作品として魅力あるものになっているかどうかの指標になるのではないかと思いました。

印象に残った文章

'私はもういちど「散る日本」と「世相講談」に引き返し、読み直した。何度読み直したか。'

> 「像が空をⅢ 勉強はそれからだ」(文春文庫)より引用

すぐに技術が身につくということはないということが分かる一文です。
"教科書"を読んですぐにできるようにはならないという当たり前のことが伝わってきます。
四苦八苦しながら、技術を自分のものにしていくこともこの1篇から学ぶことができると思います。

おわりに

文章を書く、ノンフィクションを書く、ルポルタージュを書く際の参考になることは間違いないと思います。
文章を書く力をつけたいと考えている方にはぜひ一読していただきたい作品です。

【書評】「幕末よもやま(司馬遼太郎対話選集3 歴史を動かす力)」(司馬遼太郎)を読んでの感想

はじめに

司馬遼太郎さんと子母澤寛さんの対談です。
タイトル通り、幕末の話題が中心の対談となっています。

目次

全体の感想

とにかく面白いです。
短い対談ですが、ずっと楽しんで読めました。
歴史に詳しいお二人が逸話を披露しているのを聴いている感じなんですね。
興味深いお話が次々に出てきて興味が尽きないです。

キーワード3選

新選組

新選組について調べた経験をお持ちの二人ですから、新選組についてのお話は非常に深いものがあります。
作品のための調査のこぼれ話のようなものがとても楽しく読めるんですね。
こんな話も聴いていたのか、と驚くような気持ちになります。

お年寄り

お二人が調査された時点で、幕末は昔の出来事となっています。
実際にその時代を生きていた人はお年寄りになっているわけなんですね。
子供のころにお年寄りから聴かされた話というものが作品の根底にあるように思えました。
お年寄りの話ということで、どこか不確かさもあるようなんですが、そこも魅力になってしまっているんじゃないかと思います。

長州藩

幕末の長州藩についてのお二人の洞察も語られています。
長州藩というものが独特の気風をもっていたとお二人は捉えているようです。
江戸時代の初めからの流れを汲んでの考察ですので、非常に面白いですね。
司馬さんの作品には、安土・桃山時代から江戸時代にかけてを描いたものもあります。
直接ではないのですが、幕末の作品とのつながりもどこかにあるように思えました。

印象に残った文章

'まあ、二流の川柳作家といった程度の文才がございますね。'

> 「司馬遼太郎対話選集3 歴史を動かす力」(文春文庫)より引用

司馬さんが土方歳三の文芸の才能を評しての言葉です。
文芸については、お二人の専門分野です。
俳句などが残っている歴史上の人物の文芸の才能に対して評価していることが興味深いなと思いました。

おわりに

お二人ともに日本の歴史についてお詳しいので、話されている内容が興味深かったです。
ずっと聞いていられるような気がする対談でした。
歴史小説がお好きな方におすすめの対談です。

【書評】「鎌倉武士と一所懸命(司馬遼太郎対話選集1 この国のはじまりについて)」(司馬遼太郎)を読んでの感想

はじめに

司馬遼太郎さんと、永井路子さんとの対談です。
鎌倉幕府成立時の日本社会について語られています。

目次

全体の感想

平家物語の時代の内容について語られています。
基本的なことは知っていても、お二人ほどの知識は当然ながらないので、勉強になるなというのが率直な感想です。
日本社会の一つの時代を切り取った捉え方を学ぶのによい資料になるのではないかと思います。

キーワード3選

東日本と西日本

源頼朝の時代の日本社会についてお二人のとらえ方が語られており、東と西の社会の違いがあるとされています。
この時代の社会について、深く知る機会はなかったので非常に興味深かったです。
社会を変える原動力になったものが何だったのかを考えるきっかけになると思います。

源頼朝源義経

頼朝と義経については多くの捉え方があると思います。
どうして二人は平家物語のような変遷を辿ったのか。
多くの解釈がありますが、お二人の対談の中での解釈もとても興味深いものでした。

平家物語

平家物語の時代についての対談なのですが、その背景にあった社会についての認識が変わる内容かと思います。
物語の捉え方がより深くなると感じました。

おわりに

司馬遼太郎さんが日本の歴史について語っているので、すごく引き込まれるものがありました。
司馬さんは、対談集も多く刊行されており、小説や紀行文とはまた違った魅力があります。

ぜひ、対談集も手に取っていただけると、新しい司馬遼太郎さんの作品の楽しみ方が広がるのではないでしょうか。