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書評のブログ。

【書評】「彼らの流儀」(沢木耕太郎)を読んでの感想

はじめに

本書は、沢木耕太郎さんのコラムを1冊にまとめた本です。
人物を掘り下げたものが中心となっていますが、別の形態をとったものも含まれる多彩な作品群となっています。

目次

全体の感想

ちょうどよいボリュームの作品が並んでいます。
隙間のような時間にさっと一遍読むのに最適なんですね。
一方で、一つの作品ごとに雰囲気が異なり、続けて読むと振れ幅に驚くかもしれません。
馴染みのない職業の人物を主題にした作品が多く、独特の雰囲気にのまれました。

好きな作品3選

鉄塔を登る男

どうしてこの職業を主題に選んだのだろう、というのが一読後の感想です。
なかなか出会えない職業の人のはなしで、とても興味深いなと感じました。。
知らないことに対して、一つ一つ、なるほどとうなずきながら読むような作品ですね。

最後のダービー

タクシー運転手の方との邂逅を描いた作品です。
エッセイのような趣があります。
沢木さんのエッセイにはタクシーの話がいくつかあります。
タクシー運転手について書くのがうまいのかもしれないな、と思っています。
脱線してしまうようですが、他の作家の方のタクシーにまつわるエッセイが読んでみたくなりました。
本編では、運転手さんとの会話が沢木さんらしいように感じましたね。

理髪師の休日

この本の中で一番印象に残った作品です。
小説のような雰囲気を持っています。
読むうち、ノンフィクションの作品を読んでいるのかと不思議な感覚になるんですね。
理髪師という職業の裏側を覗いたような気分になると思います。
彼らの流儀という本の中でも異色な気がする1篇です。
一方で、タイトルの流儀という部分にはしっくりくるような気もするんです。
一番印象に残った理由はこの辺にあるのかもしれません。

おわりに

印象に残った3つの作品を選んでみたのですが、どれも職人の要素を持つ普通の人について書かれた作品だったことに驚きました。
沢木さんの作品では、多くの有名な方がとりあげられています。
普通の方を取材した本書は、沢木さんの作品の中では異色なのかもしれません。
有名でない人を描くのもうまいのだな、と思いました。
このような普通に出会えそうな人について書かれた別の作品を読んでみたいですね。

 

 

【書評】「贅沢な旅(貧乏だけど贅沢)」(沢木耕太郎)を読んでの感想

はじめに

本作品は、沢木耕太郎さんと阿川弘之さんが旅について語り合った対談です。
深夜特急がきっかけとなった対談であり、お二人の旅の捉え方を知ることができると思います。

目次

キーワード3選

船旅

阿川さんがお話される旅として、船旅があります。
沢木さんに船旅を進めるんですね。
一方で、深夜特急の中で沢木さんはバスを移動手段の中心に置いています。
旅の楽しみ方が一つではないことが伝わってきますし、深夜特急とは異なった旅の魅力が語られています。

贅沢

贅沢とはどんなことか、というのもこの作品のテーマになっているのではないかなと思います。
クルーズ船で世界を回る旅がどんなものかを阿川さんが語っています。
多くのお金を持った人々が船の上で過ごす時間。
非常に贅沢ではありますが、どのようなお金の使い方が心を満たすのか、ということについてもお二人は話されています。

深夜特急

この対談を読むと、深夜特急という作品のとらえかたがいくつもみえてくるように思います。
旅の楽しみ方が一つではないという当たり前のことに気づかされます。
お二人が柔らかな語り口で価値観が多様であることを話されています。
対談を読むことで、深夜特急の楽しみ方が広がるとも言えるのはないでしょうか。

印象に残った文章

なかなか贅沢も難しい(笑)。

「貧乏だけど贅沢」(文春文庫)より引用

贅沢について連想した後に出てきた阿川さんの言葉です。
贅沢が難しいというとらえ方がお二人らしいのではないかと思います。
沢木さんの対談では、理想的な贅沢とは何かという考察が語られることが多い印象です。

おわりに

沢木さんの対談はほかにも読み応えのあるものがたくさんあります。
特に旅についての対談は引き込まれると思います。
やはり、深夜特急をはじめとして、多くの旅行記を書かれている沢木さんの旅への思いを知ることができるからだと思います。
ぜひ、深夜特急と合わせて読んで頂きたいです。

【書評】「中野のライオン(眠る盃)」(向田邦子)を読んでの感想

はじめに

タイトルからは、どんな内容か想像がつきませんでした。
(向田さんのエッセイはこのようなタイトルが多いようにも思いますが。。。)
一読してみると、じっくりと読めるエッセイでした。

非常に共感できる内容ですし、また向田さんの体験したできごとに引き込まれる作品です。

目次

全体の感想

ああ、そうだな。そう思いながら挿話を一つずつ読み進められると思います。
一番盛り上がるのは、ライオンのお話になりますが、その他の挿話も読みごたえがあります。
父の詫び状から連想された、戦時中の弟さんとのエピソードも印象的でした。

最初は、どんなエッセイなのだろうと思ったのですが、すぐに主旨がつかめ、すっと読み進められました。

キーワード3選

記憶

この一遍の特徴として、昔の記憶を語っているということが挙げられます。
ごく最近のできごとで、こと細かく記憶できているというものではないんですね。
何度も思い出している印象的なできごとを語っています。
昔のことですから、やや自信がない。でも、自分では確実にそうだと記憶している。
このような体験は誰にでもあることだと思います。
向田さんのエッセイの共感をよぶような書き方の真骨頂と言えます。

人に知ってほしいという気持ち

自信のない記憶ではあっても、人に話し、できごとを知ってもらいたいという気持ちは誰しも持つものです。
向田さんも思い出を知ってもらいたいと思っていることが伝わってきます。
しかし、分かってもらえないもどかしさも書かれています。
このエッセイの裏側にあるテーマは、伝えたいというものだと思います。
ものすごく重大なできごとではなく、少し特徴的な小さい出来事である点が、向田さんのエッセイらしいんですね。

日常の描写

記憶に残っているのは、些細であっても事件ではあります。
この事件の描写は、日常を丁寧に描くことから始まっています。
いきなり印象的な部分から始まらないのですが、退屈することなく、文章の世界に引き込まれます。
向田さんのエッセイの持ち味の一つではないかと思います。

印象に残った文章

記憶や思い出というのは、一人称である。
単眼である。

「眠る杯」(講談社文庫)より引用

このエッセイの本質を表した一文としてこれ以上のものはないと思います。
単眼という言葉のチョイスがいいなと。
なかなか出てこない表現ではないでしょうか。

おわりに

向田さんらしいエッセイだと思います。
日常の些細な感覚をいくつかの挿話をもとに描いています。
最後は、一歩ひいた感じで終わるのも落語にも似た独特の味わいがあります。

このエッセイには、もう一つ大きな特徴があるんです。
実は、続編のエッセイとして、「新宿のライオン」というのがあるんですね。
本作品の挿話の一つして書かれたライオンのお話にまつわる後日譚が書かれています。

一つのエッセイから広がった新しいエピソードも非常に楽しく読める一遍となっています。
ぜひ、2つの作品を続けて読んでいただきたいなと思います。

 

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【書評】「学生アイス(父の詫び状)」(向田邦子)を読んでの感想

はじめに

読む前には、タイトルが印象的だなと思っていました。
書き出しのアイスクリームがフランスに伝わったエピソードから徐々に引き込まれて一気に読んでしまいました。
すうっと流れるような味わいのエッセイです。

目次

全体の感想

派手さはない一遍ではないかと思います。
主題はタイトル通り、アイスクリームと学生時代の思い出です。
組み合わせが絶妙でして、アイスクリームが特別な食べ物であったころと、学生特有の感情の描写が読んでいて楽しいんです。

キーワード3選

アイスクリームという食べ物

昭和初期、アイスクリームが実に貴重な食べ物であったことが書かれています。
向田さんのお母さんがアイスクリームをお家でつくる描写もあります。
今では想像するのも難しいですが、冷蔵庫のない時代には滅多に食べられないものだったんですね。

アルバイト

学生時代の思い出として、アイスクリームを売るアルバイトのお話が語られています。
アルバイトの難しさや、楽しさが綴られています。
向田さんが普通のアルバイトをしていたというのが何だか不思議でした。
語られているエピソードも楽しく、非常に盛り上がる場面となっています。

時代の流れの速さ

アイスクリームが非常に貴重であった時代から、売り歩くことができる時代、そして何時でも食べられる時代。
向田さんの経験から、変わっていく時代の速さが感じられました。
昭和の時代は本当に生活の変化のスピードが凄かったんだと思います。
このような変化を感じられることが多いのも向田さんのエッセイの魅力ではないかなと。

印象に残った文章

'...サラリーマンの娘に生まれた悲しさで、生れて二十年ただの一度も物を売ったことがないのである。'「父の詫び状」(文春文庫)より引用

向田さんが自分をどうとらえていたかが分かる一文かと思います。
この一文で一歩引いて思い出を描写している印象を受けました。

おわりに

向田さんとアイスクリームの思い出という言葉でしか言い表せない独特の雰囲気のエッセイです。
次々流れるように語られる思い出、アルバイトの描写の勢いから、すっと結ばれる最後は歯切れの良さを感じさせます。
また、終わり方はエッセイを書いている「今」を感じさせるんですね。
客観的に思い出を話してくれた向田さんの姿が連想されます。
どこか落語のような雰囲気を持った一遍ではないかと思います。

 

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【書評】「記念写真(父の詫び状)」(向田邦子)を読んでの感想

はじめに

本作品は、記念写真にまつわるエッセイです。
向田さんの家族や、子供時代、学生時代の思い出が次々に描かれます。

目次

全体の感想

一読後の印象としては、親しみやすい1篇でした。
記念写真は誰でも撮ったことがあるからではないかと思います。
向田さんの時代とは異なるんですが、自分の思い出も頭に浮かんできます。
そこが楽しく、親しみを生むんだと思います。
写真の思い出が、人との思い出に着地していくんです。その読み味が心地いいんですね。

キーワード3選

笑顔

写真を撮るときに笑うのは難しいという内容です。
確かにその通りですし、武田鉄矢さんが撮影の際に同僚を笑わしていたエピソードも楽しいですね。

お祖父さん

向田さんのお祖父さんの思い出は、親しみがわいていいなと思うんですね。
本編の中のエピソードも微笑ましいです。

恩師

学生時代の先生と撮った記念写真の思い出もあります。
家族とも友人とも違った距離感の記念写真ですね。
再会した際のエピソードも味わい深いです。

印象に残った文章

...私と一緒に写した写真は一枚もない。

> 「父の詫び状」(文春文庫)より引用

写真のエッセイの中で、取らなかった思い出に触れています。
撮っておけばよかったと思うのも写真の思い出のひとつだとおもいます。
共感できる人もいそうだなと思いました。

おわりに

さらりと読める1篇です。
笑えるエピソードと写真から思い出される情景がとても良いバランスで描かれています。
少し空いた時間に読むのに最適な作品だと思います。

 

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【書評】「海苔巻きの端っこ(父の詫び状)」(向田邦子)を読んでの感想

はじめに

本作品は、少し変わった視点からの食べ物についてのエッセイです。
パンの耳のような食べ物のメインではないところが好きということについて書かれています。
向田さんの手にかかると、一緒に様々な思い出が描かれます。
すごく自然ですっと読める内容になっています。

目次

全体の感想

印象に残ったのは以下の2つの思い出です。

  • 遠足の思い出
  • 広い部屋での食事の思い出

遠足は、友人との思い出です。
お弁当の海苔巻きと友人の生活、姿が上手く合わさって書かれているんです。

広い部屋の思い出は、勘違いが発端のお話なんですが、ふっと笑ってしまうエピソードです。

キーワード3選

羊羹、かまぼこ、伊達巻の両端

本作品のテーマに沿った、好きな食べ物の例として挙げられたものです。
全部、分かるなあと思いました。
共感できる人もいるんじゃないかと思うんですが…

鮭カンの骨

こちらも、好きな食べ物の例なんですが、これが一番納得感がありました。
ここに着目するの、すごいなと思った1品です。

隅っこ

食べ物から離れて、エッセイが展開していく中で、隅っこというものについて書かれるんです。
落ち着く場所について、語られます。
食事、作品を書くとき、著名な作家の部屋。話題は自然に流れています。
向田さんならではの語り口が心地良いんです。

印象に残った文章

不意に胸の奥が白湯でも飲んだように温かくなった。

> 「父の詫び状」(文春文庫)より引用

テーマとはあまり直結はしないんですが、この表現が印象に残りました。
好きな食べ物が発端で思い出を辿って行った先にあったものということになります。
心が温かくなるような思い出を手にとって、エッセイとして編み込んであるところが、良いんだと思います。

おわりに

最後も歯切れよく終わるんです。
向田さんらしいエッセイだと思いました。
きっと、この共感できる人がいると思います。

 

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【書評】「夢見た空(像が空をⅡ 不思議の果実)」(沢木耕太郎)を読んでの感想

はじめに

本作品は、1984年のロサンゼルスオリンピックについて書かれたものです。
当時は冷戦下で、社会情勢も合わせて描かれています。
冷戦であったことを鮮明に表しているのは、東側諸国のボイコットです。
沢木さんは、不参加を決めたソ連の首都モスクワ、東ドイツの首都東ベルリンを経由してアメリカに向かうんですね。
東側の社会の実情とアメリカで開催された世界的なイベントであるオリンピックの対比が読みどころだと思います。

実力者がいた東側諸国のボイコットはオリンピックにどのように影響を与えたのか。
充分に盛り上がったのか。
何か足りないものはなかったのか。

1984年のオリンピックがどのようなものだったのかが、主題となっています。

目次

全体の感想

東側社会の実情の一面を描いた前半と、アメリカでのオリンピックを取材した後半で印象は変わります。
対比がそれぞれを際立たせていて、特にアメリカ社会の勢いが印象に残ると思います。
アメリカはとにかく豊かで、当時の最先端のテクノロジーでオリンピックを運営しているんですね。
東側とは全く異なる社会であったことが伝わってきます。
一方で、街を出歩くにも危険が付きまとったりするアメリカの現実も書かれています。
西の豊かさの翳り、東の社会の実情が書かれているように思いました。

キーワード3選

カール・ルイス

沢木さんのカール・ルイス観ともいうものが書かれているんですね。
興味深いなと思い、読みました。
本作品の中では際立った箇所とも思えました。

冷戦

冷戦の中のオリンピックであることが最大のテーマとなっています。
東西の対立が社会の動きに影響を逐一与えていたことが分かる作品です。
沢木さんが旅することで体感したことが伝わってきます。

オリンピック

1980年のモスクワオリンピックでは、西側諸国がボイコットをしていることも重要な要素です。
1984年に東側がボイコットしたのは、モスクワオリンピックへの報復であったんですね。
オリンピックの意義についてもストレートに考えさせる作品だと思いました。

印象に残った文章

俺もあそこに行けたのだ。

> 「像が空をⅡ 不思議の果実」より引用

東ベルリンで沢木さんが感じたこととして書かれた文章です。
実感がこもっている一文です。
当時、東側から西側を見た時に感じる思いだったのではないかと思います。

おわりに

スポーツと政治が深く関連して、開催された内容に影響を与えるケースは多くあったと思います。
このような歴史に興味がある方向けの作品であると思います。
1984年のオリンピックが歴史的にみて、どのようなものであったのか考えさせられました。

社会情勢をテーマに含ませ、取材されたことが伝わってくる本作品ですが、同時にスポーツが持っている魅力には抗えないということも伝わってきました。
最高の舞台で力を放とうとするアスリートの姿は非常に印象的なんですね。
次回のオリンピックである、ソウルオリンピックについて書かれた箇所からは希望のようなものを感じました。

スポーツをより広い枠組みで捉えた作品であると思います。