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書評のブログ。

【書評】「ドランカー<酔いどれ>(敗れざる者たち)」(沢木耕太郎)を読んでの感想


はじめに

1975年、元ボクサーの輪島功一さんが当時のWBAジュニアミドル級世界チャンピオン、柳済斗さんと戦ったタイトルマッチについて取材されたノンフィクション作品です。

目次

全体の感想

クライマックスがとにかくいいんです。
試合に向かっていく輪島さんの姿とともに、本音が垣間見れるんですね。
裏側にあった要素が沢木さんの目を通して、描写されます。
解釈は人それぞれだと思いますが、決して陽気なものばかりではありません。
最後の場面では、それまで描写されていたものを打ち消すようもの、勝ったという事実があったことが書かれています。

キーワード3選

減量

輪島さんが減量する姿が描かれています。
ボクサーのイメージそのままの姿は強く印象に残りました。

プロ

輪島さんのボクサーとしての職業意識が感じとれる場面が多くあります。
金銭と引き換えに試合を行う者としてどう考えて生活しているのか。
プロ意識が勝てた理由ではないと思います。
試合に向けて自分を高めていくことしかないだけなんだと思いました。

したたかさ

輪島さんは勝つためにすべてを捧げます。
ルールの中であざむことも厭わないんですね。
恰好や体裁ではなく、勝つことを求める姿は、潔くもありました。
そこが勝てた理由ではないように文章からは感じられると思います。
ただ、勝つことに誠実ベテランボクサーの姿が印象に残っています。

印象に残った文章

'この世界は勝った者が官軍です。勝った者が強かった者なんです。'

「敗れざる者たち」(文春文庫)より引用

現実的な言葉だと思います。
輪島さんが所属していたジムの会長の言葉なんですね。
一人の人間をボクサーを育て、試合に向かわせようとしている人間の凄みを感じさせます。

おわりに

試合に向けて高まっていく様子が伝わってきます。
可能な限り近い場所で見ていた沢木さんには、その高揚感を感じていたと思います。

スポーツ観戦を楽しむ上で、出場者のエピソードを知ることは最上の手段です。
そのことが理屈抜きで分かるような一遍だと思いました。

そして、この一遍には「コホーネス<肝っ玉>」という続きの作品があります。
ぜひ、合わせて読んでみてほしいです。

 

【書評】「運命の受容と反抗(像が空をⅠ 夕陽が眼にしみる)」(沢木耕太郎)を読んでの感想


はじめに

沢木耕太郎さんが、柴田錬三郎さんについて書かれた一遍になります。

目次

全体の感想

文章の始まり方がとても自然で、流れるように主題に入っていくんですね。
マクラにあたる部分も印象的です。
すっとテーマに入っていって、すとんと着地する感じの一遍でした。

キーワード3選

対談

マクラはある対談での挿話になっています。
このお話自体が魅力のあるものになっていると思いました。
登場する人物、本、できごと、全てが想像の範疇の外にあるような話です。

降りて、降りない

本編の最も重要な言葉ではないかと思います。
難しい考え方ですね。
こういうことを実践できる人には凄みがあるんだろうな、と。

時代小説

沢木さんが時代小説の世界に没頭していた時期があることが書かれています。
柴田錬三郎さんにとって時代小説を書くというのがどういうことだったのかということへの考察が書かれています。
時代小説の雰囲気と沢木さんの作品に通じるものがあるというようなことが書かれていて、妙に納得できました。

印象に残った文章

抗したところで結局は何も変わらないかもしれないが、抗してみるだけの価値はある、と。

 > 「像が空をⅠ夕陽が眼にしみる」(文春文庫)より引用

沢木さんが柴田さんの作品に流れるテーマとして書かれた一文です。

本作品のテーマを端的に表していると思います。

このような視点で沢木さんの作品を読み解いてみるのもいいかもしれませんね。

おわりに

一人の作家さんの作品の変遷と生き方の共通点をごく自然に書かれています。
好きな作品の著者について知りたくなるのは、誰にでもあるんじゃないかと思うんですが、沢木さんもそういった部分があったんだろうなと思えました。
少年時代に没頭したというのがいいですね。

興味深く読めた一遍でした。

 

【書評】「苦い報酬(像が空をⅠ 夕陽が眼にしみる)」(沢木耕太郎)を読んでの感想

はじめに

本作品は、沢木耕太郎さんによるトルーマン・カポーティについての論評ともいうべきものです。
私は、トルーマン・カポーティという作家をこの文章で初めて知りました。
うっすらと知っていた「ティファニーで朝食を」という小説の作者であることと、「冷血」という著名なノンフィクション作品の作者であること。
この2点が一読後に最も記憶に残ったことでした。

2回、3回と読むうちに緻密な作家論が展開されていることに圧倒されました。
一人の作家の作品の遍歴から、創作の裏側を読み解く文章は読むうちにどんどん引き込まれます。

目次

全体の感想

沢木さんの深い洞察に圧倒され、飲み込まれるような印象さえ持ちました。
作品の中に流れを見出し、作風の変化の分岐点を指摘しています。
ご自身が文章を書かれていることから、技術についての論評には説得力があります。
一人の作家を追いかけて読み続けることの魅力を感じられる一遍だと思います。

キーワード3選

文章のスタイル

何気なく本を読んでいると、見落としがちなことですが、著者は文章のスタイルについて深く考えて書いているんですね。
カポーティが文章のスタイルを追い求めていたことを沢木さんは指摘しています。
革新的なスタイルを見出して、発表することは作家の方にとって代え難いものであることが伝わってきます。

「冷血」

実際に発生した殺人事件をカポーティが徹底的に取材して書かれた作品です。
ノンフィクションライターにとっては、重要な作品であったそうです。
この一遍から、「冷血」が沢木さんにとっても避けられない一冊であったことが分かります。

名声

有名な作家となったことがカポーティの作家としての遍歴で重要な要素となっていることが指摘されています。
文章のスタイルを追い求める作家としての生き方とは、別に華やかな交友を楽しんでいたんですね。
沢木さんは、カポーティが作家として実現できたこととできなかったことを明確に分析しています。

個人的には、カポーティという作家がとらえどころのないような作家であるという印象も持ちました。
同じ時代に生活をしていないと分からない部分もきっとあるのだろうと思います。
いずれにしても、当時を代表する作家であったことが伝わってきます。

おわりに

本を読み、一人の作家を知ることの魅力を十二分に伝えている文章だと思います。
一人でもそのような読書の体験ができることは豊かなことなんじゃないかと思うんですね。

トルーマン・カポーティの本を読みたくなることは間違いない文章です。
さらに、沢木さんが書かれた他の作家の方についての文章も読んでみてほしいです。
(作家論がまとめられた「作家との遭遇」がおすすめです。)

 

 

【書評】「死に場所を見つける(貧乏だけど贅沢)」(沢木耕太郎)を読んでの感想


はじめに

沢木耕太郎さんと高倉健さんの対談です。
沢木さんの作品を読む前には、お二人が対談されていることが意外に思えました。
対談についての経緯は、エッセイなどで読むことができます。
沢木さんの作品には、高倉さんのお話が多く出てくるんですね。
お互いを尊敬しあう関係がとても爽やかに思えました。
この対談では、お二人がお互いの仕事を知ろうとしているところが印象に残っています。

目次

キーワード3選

ハワイ

お二人が好きな場所として、ハワイを挙げているんです。
ハワイにについて書かれた文章も沢木さんには割と多いんですね。
少し意外なのですが、興味深くて印象に残っています。

長い灰色の線

高倉さんが対談された当時に観てよかったと語っている映画作品です。
高倉さんのエッセイを読むと、映画作品について書かれているものが出てきます。
感動した気持ちが伝わってくる文章なんですね。
この作品も観てみたくなりました。

外国

高倉さんにとっての外国観というようなものも最後に語られています。
遠く離れた場所への憧れを持っていたんだなと感じました。
お二人とも外国を訪れる機会も多かったと思うのですが、外国への憧れを持ち続けていた高倉さんの言葉が印象的でした。

印象に残った文章

'悲しいのがオーバーということなら、寂しいですね。決して陽気にはなりませんね。'

「貧乏だけど贅沢」(文春文庫)より引用

この一言は高倉さんのものです。
発せられた意味も重要だと思うのですが、語り口が高倉さんならではのものだと思えるんですね。
話している映像が目に浮かぶように感じます。

おわりに

お二人の話を近くで聞いているような感覚になる一遍です。
ずっと聴いていられるように思いました。
内容もいいのは当然だと思うのですが、お二人の語り口が優しいんですね。
お互いへの尊敬が言葉の端々から感じられるし、自分自身のことをしっかりと客観視していることも伝わってきます。
高倉さんの映画作品も観たくなったのを覚えています。
ぜひ、読んで頂きたい対談です。

【書評】「彼らの流儀」(沢木耕太郎)を読んでの感想

はじめに

本書は、沢木耕太郎さんのコラムを1冊にまとめた本です。
人物を掘り下げたものが中心となっていますが、別の形態をとったものも含まれる多彩な作品群となっています。

目次

全体の感想

ちょうどよいボリュームの作品が並んでいます。
隙間のような時間にさっと一遍読むのに最適なんですね。
一方で、一つの作品ごとに雰囲気が異なり、続けて読むと振れ幅に驚くかもしれません。
馴染みのない職業の人物を主題にした作品が多く、独特の雰囲気にのまれました。

好きな作品3選

鉄塔を登る男

どうしてこの職業を主題に選んだのだろう、というのが一読後の感想です。
なかなか出会えない職業の人のはなしで、とても興味深いなと感じました。。
知らないことに対して、一つ一つ、なるほどとうなずきながら読むような作品ですね。

最後のダービー

タクシー運転手の方との邂逅を描いた作品です。
エッセイのような趣があります。
沢木さんのエッセイにはタクシーの話がいくつかあります。
タクシー運転手について書くのがうまいのかもしれないな、と思っています。
脱線してしまうようですが、他の作家の方のタクシーにまつわるエッセイが読んでみたくなりました。
本編では、運転手さんとの会話が沢木さんらしいように感じましたね。

理髪師の休日

この本の中で一番印象に残った作品です。
小説のような雰囲気を持っています。
読むうち、ノンフィクションの作品を読んでいるのかと不思議な感覚になるんですね。
理髪師という職業の裏側を覗いたような気分になると思います。
彼らの流儀という本の中でも異色な気がする1篇です。
一方で、タイトルの流儀という部分にはしっくりくるような気もするんです。
一番印象に残った理由はこの辺にあるのかもしれません。

おわりに

印象に残った3つの作品を選んでみたのですが、どれも職人の要素を持つ普通の人について書かれた作品だったことに驚きました。
沢木さんの作品では、多くの有名な方がとりあげられています。
普通の方を取材した本書は、沢木さんの作品の中では異色なのかもしれません。
有名でない人を描くのもうまいのだな、と思いました。
このような普通に出会えそうな人について書かれた別の作品を読んでみたいですね。

 

 

【書評】「贅沢な旅(貧乏だけど贅沢)」(沢木耕太郎)を読んでの感想

はじめに

本作品は、沢木耕太郎さんと阿川弘之さんが旅について語り合った対談です。
深夜特急がきっかけとなった対談であり、お二人の旅の捉え方を知ることができると思います。

目次

キーワード3選

船旅

阿川さんがお話される旅として、船旅があります。
沢木さんに船旅を進めるんですね。
一方で、深夜特急の中で沢木さんはバスを移動手段の中心に置いています。
旅の楽しみ方が一つではないことが伝わってきますし、深夜特急とは異なった旅の魅力が語られています。

贅沢

贅沢とはどんなことか、というのもこの作品のテーマになっているのではないかなと思います。
クルーズ船で世界を回る旅がどんなものかを阿川さんが語っています。
多くのお金を持った人々が船の上で過ごす時間。
非常に贅沢ではありますが、どのようなお金の使い方が心を満たすのか、ということについてもお二人は話されています。

深夜特急

この対談を読むと、深夜特急という作品のとらえかたがいくつもみえてくるように思います。
旅の楽しみ方が一つではないという当たり前のことに気づかされます。
お二人が柔らかな語り口で価値観が多様であることを話されています。
対談を読むことで、深夜特急の楽しみ方が広がるとも言えるのはないでしょうか。

印象に残った文章

なかなか贅沢も難しい(笑)。

「貧乏だけど贅沢」(文春文庫)より引用

贅沢について連想した後に出てきた阿川さんの言葉です。
贅沢が難しいというとらえ方がお二人らしいのではないかと思います。
沢木さんの対談では、理想的な贅沢とは何かという考察が語られることが多い印象です。

おわりに

沢木さんの対談はほかにも読み応えのあるものがたくさんあります。
特に旅についての対談は引き込まれると思います。
やはり、深夜特急をはじめとして、多くの旅行記を書かれている沢木さんの旅への思いを知ることができるからだと思います。
ぜひ、深夜特急と合わせて読んで頂きたいです。

【書評】「中野のライオン(眠る盃)」(向田邦子)を読んでの感想

はじめに

タイトルからは、どんな内容か想像がつきませんでした。
(向田さんのエッセイはこのようなタイトルが多いようにも思いますが。。。)
一読してみると、じっくりと読めるエッセイでした。

非常に共感できる内容ですし、また向田さんの体験したできごとに引き込まれる作品です。

目次

全体の感想

ああ、そうだな。そう思いながら挿話を一つずつ読み進められると思います。
一番盛り上がるのは、ライオンのお話になりますが、その他の挿話も読みごたえがあります。
父の詫び状から連想された、戦時中の弟さんとのエピソードも印象的でした。

最初は、どんなエッセイなのだろうと思ったのですが、すぐに主旨がつかめ、すっと読み進められました。

キーワード3選

記憶

この一遍の特徴として、昔の記憶を語っているということが挙げられます。
ごく最近のできごとで、こと細かく記憶できているというものではないんですね。
何度も思い出している印象的なできごとを語っています。
昔のことですから、やや自信がない。でも、自分では確実にそうだと記憶している。
このような体験は誰にでもあることだと思います。
向田さんのエッセイの共感をよぶような書き方の真骨頂と言えます。

人に知ってほしいという気持ち

自信のない記憶ではあっても、人に話し、できごとを知ってもらいたいという気持ちは誰しも持つものです。
向田さんも思い出を知ってもらいたいと思っていることが伝わってきます。
しかし、分かってもらえないもどかしさも書かれています。
このエッセイの裏側にあるテーマは、伝えたいというものだと思います。
ものすごく重大なできごとではなく、少し特徴的な小さい出来事である点が、向田さんのエッセイらしいんですね。

日常の描写

記憶に残っているのは、些細であっても事件ではあります。
この事件の描写は、日常を丁寧に描くことから始まっています。
いきなり印象的な部分から始まらないのですが、退屈することなく、文章の世界に引き込まれます。
向田さんのエッセイの持ち味の一つではないかと思います。

印象に残った文章

記憶や思い出というのは、一人称である。
単眼である。

「眠る杯」(講談社文庫)より引用

このエッセイの本質を表した一文としてこれ以上のものはないと思います。
単眼という言葉のチョイスがいいなと。
なかなか出てこない表現ではないでしょうか。

おわりに

向田さんらしいエッセイだと思います。
日常の些細な感覚をいくつかの挿話をもとに描いています。
最後は、一歩ひいた感じで終わるのも落語にも似た独特の味わいがあります。

このエッセイには、もう一つ大きな特徴があるんです。
実は、続編のエッセイとして、「新宿のライオン」というのがあるんですね。
本作品の挿話の一つして書かれたライオンのお話にまつわる後日譚が書かれています。

一つのエッセイから広がった新しいエピソードも非常に楽しく読める一遍となっています。
ぜひ、2つの作品を続けて読んでいただきたいなと思います。

 

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