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書評のブログ。

【書評】「「分かりやすい教え方」の技術―「教え上手」になるための13のポイント (ブルーバックス)」(藤沢 晃治) を読んでの感想

はじめに

人に何かを教える経験は誰にでもあるのではないかと思います。
教える立場にたって分かるのは、教えることの難しさです。
「教えるのは本当に難しい。」それが、私の正直な認識でした。
少しでも上手な教え方を知りたいと思い、本書を手に取りました。

目次

全体の感想

最も印象に残ったポイントは、「情熱を持つこと」です。
基本的なことですが、これがないと他の教えるための技術もいきてきません。
確かに、自分の中に情熱が不足していたなと思ったのです。
反省しました。

キーワード3選

以下、具体的に実践したいと思った項目3点です。

  1. 生徒をお客様と思う
  2. 楽しませる
  3. 褒める

1.生徒をお客様と思う

教えるというのは、生徒が学びをえること。主役は生徒なのですね。
生徒が喜ぶことが教える側のゴールなのだという意識が重要ということです。
いかにお客様を喜ばせるか。どれだけサービスを提供できるか。
意識していなかったことに気付かされました。

2.楽しませる

教えると、どうしても厳しくなってしまうと思います。
間違いがあってはならないと思うと、特にそうです。
学ぶことを楽しんでもらうことで生徒の成長を促すことの大切さが書かれていました。
楽しさが生徒の自主性を引き出すというのは新たな発見でした。

3.褒める

褒めることで生徒を誘導することが大切だと書かれていました。
誰でも褒められれば、嬉しい。
また、小さな進歩を認めてもらえるとやる気が出ます。
悪い所を見つけて正すよりも、良い所を見つけて褒めることが大切だと学びました。
また、褒めることで叱る言葉が、生徒の心に届くようになるというのも新たな気付きでした。
まずは褒めることを意識します。

印象に残った文章

自分自身をよく観察し、先生役を務める上で障害になるような欠点が現れないようにするだけです。

> 「分かりやすい教え方」の技術―「教え上手」になるための13のポイント (講談社)より引用

教えるにあたって、自分が向いていないのではないか、という考えに対して、気楽に教えればよいという筆者のアドバイスとも言える箇所にある1文です。

生まれついての性格が向いていようが向いていまいが、気楽に教える役割を担えばよい、という言葉には励まされます。

あまり気負わず、できることを最大限にやるだけだな、と思えました。

おわりに

教えることを学ぶ機会は少ないと思うので、一度本書を読んでおくと、
いざという時に役立つのではないかと思います。

教えるということは、自分も学ぶということだとも本書に書かれていました。
お互いが学ぶことができれば、こんなに良いことはないと思います。

教えることが上達すると、いろいろなことが円滑に進むのではないでしょうか?

本書で学んだことを少しでも活せれば、と。

 


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【書評】「イシノヒカル、お前は走った!(敗れざる者たち)」(沢木耕太郎)を読んでの感想

はじめに

イシノヒカル、お前は走った!」は「敗れざる者たち」に所収されているスポーツ・ノンフィクションの1篇です。
競馬を取り扱った作品となっています。
沢木耕太郎さんが、ダービーを目前にした厩舎に住み込んで取材して書かれています。
厩舎には有力馬である、イシノヒカルがいるんですね。
このような経緯の作品ですから、当然ながら1970年代の日本の競馬の実情が分かります。
競馬が好きな方、スポーツが好きな方にはぜひ、読んでいただきたい作品です。

この作品を読んだきっかけはとくになかったように思います。
なんとなく読み始めたのですが、その面白さにどんどん引き込まれていったの記憶があります。

目次

全体の感想

文章の端々から、沢木さんが若いことを感じられるように思います。
厩舎での生活から感じらっることを新鮮に思っていることが伝わってきて、そこから若さを感じるのではないかな、と。
言葉も少し後年の作品とは違う印象なんですよね。

本作品からは、ダービーがいかに特別であるかが分かります。
関係者が全員、強い思いをもっているんですね。
その思いを読んでいくところの流れがいいんです。

ダービーへの想いを掴めたのは沢木さんが厩舎に住み込んだためだと思います。
取材したことが、十二分に活かされていて、どんどん読み進んでいけます。
取材するものに近づいたことによる凄みを感じさせる一篇とも言えます。

キーワード3選

1.信仰

騎手、厩務員、調教師の家族のダービーへの想いが順に描写されます。
そして、主人公ともいえるイシノヒカルにとってのダービーについても書かれます。
その後に、出てきた言葉が信仰なのです。
ここでの信仰というのは馬に賭けた浅野調教師の姿を表したものです。
執念という言葉に置き換わり、浅野調教師にとってのダービー、イシノヒカルが綴られていくのです。
読むうちに、イシノヒカルが競走馬以上の何かであるように思えました。

2.上田清次郎

ダービーを勝つために、レースで連勝している競走馬を購入したエピソードが語られています。
このエピソードは沢木さんの別のエッセイでも読んだことがあるのですが、この作品の中で書かれると味わいが違います。
競馬というと思い出される、忘れられないエピソードです。

3.追いかける

追いかけるという言葉が、この作品の最も重要なキーワードだと思います。
ぜひ、この言葉を作品の中で読んでいただきたいです。

印象に残った文章

日本ダービーが、天皇賞にも有馬記念にもない熱気を生む理由のひとつは、”たった一度”を持ちうるものへの人々の羨望が、乱反射するからに違いない。

> 「敗れざる者たち」(文春文庫)より引用

ダービーの魅力を十二分に伝えてくれる文章だと思います。
沢木さんのダービー観というものも込められているのではないかな、と。

おわりに

スポーツの魅力が分かる作品だと思います。
ダービーというレースに限らず、競馬に限らず、スポーツの大一番を楽しむ技術が分かる作品ではないでしょうか。

この一篇を読むと、次の沢木さんの一篇が読みたくなります。

 

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【書評】「フットボールの犬」(宇都宮徹壱)を読んでの感想

はじめに

本書は、ヨーロッパのサッカー(フットボール)についての本です。
主に2000年代のヨーロッパのサッカーシーンが分かる内容になっています。

宇都宮さんはワールドカップやEUROなどの大きな大会の記事も書かれています。
本書を知ったきっかけはそちらでした。

本書は、サッカーの世界の表側ではなく、裏側に焦点を当てています。
チャンピオンズリーグやワールドカップの試合を中心にはしていないんです。
東ヨーロッパ(旧共産圏)や小さな国でのサッカーを特に重点的に取材の対象としています。
ヨーロッパサッカーがピラミッドのような構造を持っていることが分かるんですね。
その中を生き抜く選手の強さ、期待しているコーチや裏方の人々、ファンの気持ちが伝わってきます。
そして、本書から分かることは、いろいろな場所に様々なかたちのサッカーがあることだと思いました。
世界中のサッカーを追いかける旅の面白さを描いた本だと思います。

目次

全体の感想

サッカーが中心ですが、旅、歴史、文化、国家、政治といったものが合わせて見えてきます。
ヨーロッパの歴史とサッカーは切り離せないということが分かると思います。

ワールドカップ欧州選手権チャンピオンズリーグなどの華やかな舞台の裏側が分かります。
トップレベルにたどり着く選手のあまり知られていないような一面も垣間見れました。
特に、東ヨーロッパ出身の選手のアマチュア時代は、大変な思いをしてきたことが分かります。
国家の変動の中から出てきた選手たちの強さを感じました。


2000年代の初頭、世界の在り方が変わってきたのが本書を通して見えてきます。

印象に残った選手3選

本書の中で印象に残った選手3人について書きたいと思います。

ルカ・モドリッチ

クロアチア代表の選手です。(2021年も現役の選手ですね。)
2006年ワールドカップクロアチア代表は日本代表と対戦しました。
試合前の取材ということでクロアチア代表の選手についての1篇となっています。

モドリッチは、ユーゴスラビアの内戦を経験したサッカー選手です。
彼の過去からは、バロンドールに選ばれたモドリッチの心身の強さの理由が分かると思います。
また、この1篇はレアル・マドリードに移籍する前の若い時代のお話になっています。
当時の代表チームのチームメイトであったニコ・クラ二チャールの方が有望な選手といった感じで書かれているのですが、
クラ二チャールは怪我によって、大きく成功することはできませんでした。
スポーツの世界ではよくあることだと思います。
モドリッチは、レアル・マドリードの中心となり、2018年にワールドカップで準優勝し、バロンドールに選ばれる。
2021年に読むと、また違った味わいがあります。

アンドリー・シェフチェンコ

シェフチェンコは、ウクライナのサッカー選手であった人物です。
ACミランに所属していた頃には、バロンドールにも選ばれています。
選手として育ったのは、旧ソ連の育成システムの中だったんですね。
ウクライナの歴史からも、当然ではあるのですが、意外な印象もありました。
東欧の育成システムの中から出てきた選手が西欧のサッカーの舞台を席巻していたんですね。

シェフチェンコチェルノブイリと関連があったことにも驚きました。
旧ソ連ウクライナの歴史との関連も深い選手だったのだな、と思います。
引退した後に、シェフチェンコウクライナ代表の監督にもなっています。
本当に、ウクライナのサッカー、そして、一部ではあれど、ウクライナの社会に欠かせない存在なのだなと思います。

ミヒャエル・バラック

ミヒャエル・バラックはドイツ代表の中心選手であった人物です。
彼は、旧東ドイツのゲルリッツの出身です。
ドイツ代表はサッカー強豪ですが、その歴史は旧西ドイツによるものです。
旧東ドイツは、サッカーの世界では、あまり強くはなかったんですね。
旧東ドイツのサッカーの歴史や実情が書かれた1篇の中で、バラックについても触れられています。

バラックは、2000年代のドイツ代表には欠かせない選手でした。
ドイツサッカーが一時低迷した時期に代表チームを牽引していた人物です。

(低迷といっても、ワールドカップでは準優勝したりしてはいますが...)
2006年のドイツワールドカップでも活躍しています。
統一ドイツの中心が東ドイツ出身というのは、不思議な縁だなと思いました。
バラックは、カイザースラウテルンバイエル・レバークーゼンバイエルン・ミュンヘンなどのドイツのクラブで活躍した後、イングランドチェルシーに移籍するんですね。
ドイツに留まらずに、プレーした。そこも印象に残っていますね。

印象に残った文章

'それはフットボールの世界における、時の移ろいやすさ、である。'

> 「フットボールの犬」(幻冬舎文庫)より引用

宇都宮さんが、本書を書くにあたって痛感したこととして書かれています。
移ろいやすさは、どの世界でも存在すると思います。
一つのものごとに着目すると、特にそう思えるのかもしれません。
サッカーは特にその側面が顕著なのかなと、本書を読んで思いました。
歴史の中で国家がどんどん変わり、サッカーは変わらず続いてきました。
その対比がそう思わせるのかな、と。

おわりに

印象に残った3人の選手の共通点を考えてみたのですが、以下の点がありました。

  • 生まれた国家の形が変わった
  • サッカー選手として、出身地とは異なる国へ移っていった
  • 代表チームの中心選手であった

ヨーロッパの国家というものとサッカー選手という職業の関係を考えさせられました。
サッカーで認められると、国家の枠はあまり関係なくなっているように思います。
しかし、代表チームで試合する場は常にあります。
移籍先のチームや国で認められると、出身国でも認められるんですね。
どちらかになってしまうということはないのが、サッカーの世界です。
(どの世界もそうなのでしょうか?)

国家の形は歴史の中で不定期に変わるけれど、職能で認められると割と国家の枠組みをこえて生活できるようです。
スポーツの世界はそれが顕著に思えます。

サッカーが好きな方、ヨーロッパの歴史が好きな方は楽しめる1冊です。
ぜひ、読んでみていただきたいです。

 


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【書評】「ポーカー・フェース」(沢木耕太郎)を読んでの感想

はじめに

「バーボン・ストリート」、「チェーン・スモーキング」につづく沢木耕太郎さんのエッセイ集です。
本書は、2011年に刊行されています。前の2冊に比べると、最近に書かれたものです。(もう10年以上前ではあるのですが。)
書かれている映画が見知っているものであったり、Amazonなんかも出てくるので、身近な感じがします。
久しぶりに刊行された本でしたから、書店で見つけた時には驚きました。
期待して、ページをめくった記憶があります。

目次

全体の感想

ある人物について書かれたエッセイが印象に残る本であったと思います。
特に、高峰秀子さんが印象的でした。
一つのエッセイの中でも、話題が変わっていきます。
しかし、なめらかで、バラバラな感じはしないんですね。
どのエッセイも終わり方がシュッとしていいるのも特徴です。
また、ミステリアスな感じの文章もあって、読み進めるにつれて引き込まれていくのも楽しいんです。
本書は、作家との思い出が良い本になっています。
先輩の作家さんから沢木さんが教わっている場面が特に印象的でした。

印象に残ったエッセイ3選

挽歌、ひとつ

女優の高峰秀子さんについて書かれた1篇です。
高峰さんが沢木さんにかける言葉が深く、優しいんです。
師弟のような、年齢の離れた友人同士のような感じがします。
終わり方は、強い気持ちがこもっているように思います。

なりすます

沢木さんのエッセイらしいエッセイではないでしょうか。
テーマは「偽物が本物になりすます」ことです。タイトルの通りとなっています。
「バーボン・ストリート」、「チェーン・スモーキング」からの流れを感じる1篇だと思いました。
井上ひさしさんと、井伏鱒二さんのお話がとても興味深かったです。

沖ゆく船を見送って

テーマは、ギャンブルです。
しかし、話題はいろいろと変わっていきます。
長財布、無人島、ギャンブルへとお話が進んでいきます。
お酒など飲みながらの話という印象があります。

印象に残った文章

'しかし、因果の人があまりにも複雑に絡み合い、もつれ合い、それを解きほぐすことのできない私たちには、結果の手前にあるはずの原因の見極めがつかなくなる。
なぜそうなったのか。なぜそうならなかったのか。どうして私が助かり、あの人が助からなかったのか……'

> 「ポーカー・フェース」(新潮社)より引用

「運」について書かれたエッセイの中の文章です。
沢木さんの「運」についてのとらえかたが書かれた部分だと思います。
ある分野を極めた人や、極められなかった人を多く見てきた沢木さんの言葉なので、重みがあるな、と。

おわりに

「挽歌、ひとつ」は、少し寂しい雰囲気のエッセイです。
このようなエッセイが入っているところが、前2作とは異なっているように思います。

沢木さんの生活の変化が、エッセイにも表れているのではないでしょうか。
そのへんも、独特な味わいとなっています。
ぜひ、読んでいただきたい1冊です。

 

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【書評】「バーボン・ストリート」(沢木耕太郎)を読んでの感想

はじめに

講談社エッセイ賞を受賞された沢木耕太郎さんのエッセイ集です。

単行本は、1984年に書かれた本ですから、30年以上前の本なんですね。
よみごたえのあるエッセイは古びないんじゃないかと、本書を読んで思いました。

目次

全体の感想

一つ一つのエッセイのテーマが、はっきりとしていると思います。
流れるように、話題が移っていくんですね。
リラックスした場所で話を聞いているような感じの本です。

印象に残ったエッセイ3選

1.運のつき

ギャンブルがテーマです。
沢木さんは競馬について書かれたノンフィクションの作品がありますし、色川武大さんの解説文も書かれていますから、
ギャンブルについての文章は重みが違います。
色川武大さんは、麻雀小説を書かれている阿佐田哲也さんです。)
切羽詰まった場面に出会ったところから話は始まっていきます。
さらさらと話題が移っていき、最後はきれいに終わります。
ギャンブルの面白さと恐さを目の前で語ってもらったようなエッセイです。

2.角ずれの音が聞こえる

贅沢について書かれたエッセイです。
沢木さんは、普通の人生では出会えない人物に会っていると思いますし、スポーツの試合や大会にも足を運んでいると思います。
言ってみれば、”贅沢”な時間を多く過ごしているようにも思うんですね。
そんな沢木さんが贅沢をどうとらえているのかというのが分かる文章となっているんじゃないかと。
ある人との対談がきっかけとなったエッセイです。
素晴らしい人物ですので、ぜひ本編も読んでいただきたいですね。

3.ぼくも古本と散歩がすき

タイトル通り、古本がテーマの一編です。
古本に関係するエピソードがとてもいいんです。
新刊の本にはない魅力が古本にはあると教えてもらったような気になる文章です。
よい古本屋さんに足を運ぶのは心地よい時間だろうなと思います。
沢木さんにとっての古本との関り方がとてもいいな、と。

印象に残った文章

'そもそも、退屈というのが、そう悪くないものなのだ'

本書の根底にある感覚が書かれているように思いました。
退屈な時間とじっくりと向き合い、味わう。
そうすることにより感じられたものがエッセイになっているように思います。

おわりに

どこかの文章で、酒場で話すようなことをエッセイにした、というようなことを沢木さんは書かれていました。
(本書の裏表紙に書かれた紹介文やあとがきにも同様のことが書かれてます。)
そのせいか、酒を飲みながら話を聞いているようなイメージを本書の文章には持っています。
お酒を呑みながら、こんな風にたのしい話を聞けるたら、凄くいい時間になると思いますね。
呑みながら話す楽しさは変わらないのかもしれないのかもしれないですね。

 

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【書評】「チェーン・スモーキング」(沢木耕太郎)を読んでの感想

はじめに

本書は、沢木耕太郎さんのエッセイ集です。
沢木さんは深夜特急で有名な作家さんですね。
エッセイ集も多く出版されてまして、その中の1冊となっています。

私が沢木さんの文章に触れたのはエッセイからでした。
深夜特急をはじめとする旅行記、スポーツ・ノンフィクション、事件をとりあげたルポルタージュといった作品を読んだ後に読むと印象が変わったのを覚えています。
個人的には、沢木さんの作品の有名なものを読んだ後に読むとさらに良いような気がしますね。

目次

全体の感想

いろんな話題が詰め込まれています。
1篇1篇が様々な話題や、小さな知識に触れられて、読んでいる時間を飽きさせません。
リズムよく話題が移って楽しめる様な内容の読み物ですね。
お酒などのみながら、一緒に話しているような感覚になります。
話題の広さと、適度な深さ、読みやすい長さと、絶妙なエッセイが集められています。

好きなエッセイ3選

老いすぎて

スポーツに関する1篇です。
老いは、スポーツ選手にとって避けようのないものです。
アメリカのボクサーが登場し、それぞれの言葉から、老いたスポーツ選手の悲哀が感じられます。
沢木さんはボクシングについて多くの作品を残されています。
エッセイでも取材で得たボクシングの本質であり、魅力、エッセンスのようなものが込められているように思えました。

アフリカ大使館を探せ

こちらは、向田邦子さんについての話題が出てきます。
テーマは、言葉の勘違いという、誰にでもある体験です。
向田さんと沢木さんの関りについて、知ることができる内容で印象に残りました。
余談ですが、私は沢木さんの作品を通じて、向田さんの作品に関心を持ち、エッセイ集等を読むようになりました。

消えた言葉

本や映画に出てきたはずの言葉を探すというのがテーマの1篇です。
あの言葉が印象に残った、というのを人から聞くのは楽しいものです。
そして、その言葉が実際に出てくる場面をみたり、読んだりするのはさらに楽しいと思います。
そんな体験について、書かれているんです。
沢木さんは読書家ですし、様々な取材をされている方です。
どんな言葉について、書かれているのかはじっくり読んでいただきたいなと思います。

印象に残った文章

'自分の思いの中に入っていると、しだいにアスファルトの鼓動が聞こえてくる。'

> 「チェーン・スモーキング」(新潮文庫)より引用

沢木さんが少年時代に街を散歩していた時を思い出して書かれた中の1文です。
エッセイは全て沢木さんの思いから発せられたものです。
その原点には静かに考え、ぐるぐると歩き回る様な時間があったのだなと思いました。
沢木さんのエッセイは、街から生まれるエッセイなんですね。

おわりに

なかなか、こんな風に人の興味を惹きつけ続けられる文章を書くことってできないと思います。
何度、読み返しても良いんですね。

あまり肩肘をはらずに手に取ってもらえる1冊だと思います。

【書評】「七色とんがらし(無名仮名人名簿)」(向田邦子)を読んでの感想

はじめに

「七色とんがらし」は、向田邦子さんの「無名仮名人名簿」というエッセイ集に所収されている一篇です。
「父の詫び状」を読んで、向田邦子さんのエッセイが好きになり、他のエッセイ集も読んでみたいと思ったのがきっかけです。
かなり期待して読みました。

目次

全体の感想

このエッセイは、向田さんの母方のおじいさんのお話です。
一緒に住んでいた時期があるそうで、当時の思い出が語られています。
向田邦子さんが書く他の家族のエッセイと同じような感覚になりました。
自分の家族と比較してしまいますね。
冷めている感じがあって、不思議とすっと入ってきますね。

キーワード3選

  1. 野球
  2. 小さなしあわせ
  3. おばあさん

1.野球

七色とんがらしとも、おじいさんともつながらないのではないでしょうか?
でも、野球のエピソードがいいアクセントになっているのです。
ここを読むと、お話を組み立てるのが本当に上手なんだなと思わせられます。
ぜひ、読んでほしいです。

2.小さなしあわせ

愚痴がこのエッセイのポイントだと思うんです。
そして、その対になっているものに小さなしあわせがあります。
好きなものを口にする時に嫌なことを忘れられる。
とんがらしは向田さんとおじいさんにとって小さなしあわせのもとだったんですね。

3.おばあさん

おじいさんの奥さん、つまり、向田さんのおばあさんです。
対照的な性格の2人なのですが、おじいさんが亡くなった後の一言のエピソードは印象に残りました。

印象に残った文章

'祖父は、愚痴をこぼす代わりに、おみおつけのお椀が真赤になるまで、とんがらしを振りかけたのだ。'

> 「無名仮名人名簿」(春秋文庫)より引用

年齢を重ねて分かることと思い出が結び付いて、描写が着地する1文です。
とんがらしのこのエッセイの中での意味合いが分かるんですね。

おわりに

子供の頃には分からなかったことを湿っぽくなく書くのが本当に上手だなと思います。
向田さんのお祖父さんは終わったことにぐじぐじとしない、我慢強い人であったと思うのですが、その思い出を描写する向田さんの文章もからっとしていますね。
冒頭の軽い挿話からはじまり、思い出の要所を抑え、さらっと締めくくられます。
向田さんの家族のエッセイと言えば、お父さんが有名だと思いますが、こちらも読み応えのある家族のエッセイだと思います。

 


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